新たな収益源確保に驚きの声

──パイロット販売をした「ことむすび」の手応えはどうだったのでしょう。

西原:今回、7万1300軒のお客様にチラシを配布して、総売り上げは104万5778円でした。これまで当社が乳製品とは別に売ってきた農作物、新米や梅干しの販売キャンペーンと比べて、正直に申し上げると反応は少なかったです。

最初の販促をかけた後、すぐに経営者同士でオンラインミーティングを開きました。チラシの作り方、声掛けの仕方、販売員の商品に対する理解……これらの取り組みが少なかったというような反省点を洗い出したのです。すると、次の販促時にはすぐ改善が見られました。最初の立ち上がりがもう少し早ければ、反応はもっと良かったと思います。

これまでの明治クッカーの販売網での経験から言えば、顧客層と商品の特性がマッチすると、じわじわ広がっていく感覚があります。お客様に配達員の顔と名前を覚えていただけているという関係性も、そこに寄与する部分が大きいと思います。

明治クッカーでは毎月「明治クッカー便り」という紙のチラシを配布している。販促用のチラシとして使うのはもちろんのこと、顧客とのコミュニケーションを深くするためのツールとして位置づけ、コンテンツに工夫を凝らす。同社のスタッフが生き生きと制作している様子が伝わってくるのが魅力だ(資料提供:明治クッカー)
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明治クッカーでは毎月「明治クッカー便り」という紙のチラシを配布している。販促用のチラシとして使うのはもちろんのこと、顧客とのコミュニケーションを深くするためのツールとして位置づけ、コンテンツに工夫を凝らす。同社のスタッフが生き生きと制作している様子が伝わってくるのが魅力だ(資料提供:明治クッカー)

──参加した牛乳配達事業者からの感想はいかがでしたか?

西原:どの経営者からも、新しい収益手段が作れたことへの驚きと達成感が聞こえてきました。このプロジェクトでは商品を販売した分の粗利が得られるほか、組んだベンチャー企業からも広告宣伝費やマーケティング費をいただけるわけです。「まさか(最終消費者である)自分のお客さん以外からお金がもらえるのか」という感じでした。

数社、非常に熱量が高い小規模の事業者さんがいて、ことむすび専用のウェブページを自社で作って広めていました。自分たちがまず消費者として商品の良さを確かめて、商品のコピーを書いたそうです。個別に手書きのチラシを作っていた事業者さんもありました。

そういう熱量が伝わるツールはお客様に訴えるものがあるので、やはりこうした事業者では全体平均の5倍から6倍の反応率があり、商品はすごく売れたそうです。

──参加したベンチャー企業からの感想は?

西原:先方の手応えとして、悪くないという様子がうかがえました。例えば、今回のパイロットプロジェクトでウェルナスの製品は1回チラシを配布したら30個ほどがまとまって売れました。ウェルナスではネット通販も実施していますが、一般的に言って、ネット通販はある程度時間をかけて取り組んでいかないとまとまった数で売れるレベルにはなかなか至りません。

日々、お客様と接している牛乳配達事業者は、商品の販売を始める際に「この商品の場合、だいたいこのくらい反応があるだろう」という度合いが感覚値としてつかめています。ベンチャー企業にとって、売り上げがある程度見えるというのは大きなメリットだと思います。

あくまで私たちの言い分ですが、リスクをある程度抑えながら商品をテスト販売してみたい事業者にとって使いやすいサービスだと考えています。私たちが「納得して売れる」商品であれば、まったく売れないということはまずないですからね。

地域に貢献できる、持続可能な仕組みをつくる

──今後の「ことむすび」の活動の課題や展望は。

西原:現場の販売スタッフにどれだけ商品の訴求ポイントを理解させられるかです。お客様に買っていただくためには、まず自分たちが商品のことを理解しなければいけません。今回で言えば、1個買うことで現地の農家さんがどれぐらい潤うのかとか、どんな研究に裏付けされているのかということです。明治クッカーは個々のベンチャー企業から商品の紹介を詳しく受けていたものの、ほかの事業者さんの配達スタッフにまで、その説明内容があまり浸透していなかった感触があります。

──取材に来る直前、駅前で明治クッカーの社員が試飲ブースを立てていて、宅配専用「R-1」の説明を受けました。それがなかなか上手くて、思わず聞き込んでしまったほどです。

西原:牛乳やヨーグルトが売れるのは、販売スタッフが「宅配専用のR-1ってここがすごいんです!」と力説できるほどに商品を熟知しているからです。今回のパイロットプロジェクトでも顧客からいろいろなお声をいただきましたが、中でも印象的だったのは「サプリメントは怪しいと思ったけれど、とりあえず明治クッカーさんが扱っているから頼んでみました」という声ですね。これは他の事業者さんでも多かったそうです。

──なじみがあって信頼感が持てる店が扱っているのであれば、商品カテゴリーのイメージにつきまといがちな先入観を払拭できる可能性があるということですか。

西原:はい。配達スタッフはお客様に名前と顔を覚えていただいていることが多いですから。お客様に「最近こういうものを売っているんですけど、よろしければ来週の注文に入れておきましょうか?」といった具合に提案を差し上げると、ニーズと合う商品であればすんなりと「入れといてよ」となるわけですね。

過去に明治クッカーでは、自分たちでお菓子を詰め合わせたセットをクリスマス用に作りました。これは反応率が20%でしたね。5000件のお客様にチラシを1回配布して、1000件も申し込みがあったのです。商品の企画によりますが、うまくニーズと合致すれば大きな反応が見込めます。

牛乳配達事業は、このように工夫する余地がまだまだあると思います。他の業界で行われている当たり前をうまく載せ替えることができれば、それだけで非常に大きな革新になる。私は父親から事業を継ぐ際に、うまく勝てるポイントを抑えれば確実にアドバンテージが取れると思ってこの業界に入りました。

既存の対面のインフラをきちんと活かせたら、ビジネスのメリットが出てきます。いくら力のあるネット企業でも、地域のお客さんとのこのような関係性はなかなか作れないはずです。地域の一員という意味でも、これからの高齢化社会にうまく対応するためのサービスインフラとして機能するはずです。

──実際、牛乳配達事業者で「見守りサービス」などに着手する動きがあるそうですね。

西原:そこに可能性を見いだして着手する事業者さんも多くいらっしゃいます。当社も以前やってみましたが、うまくいかなかった。最初のうちは良くて、ご高齢のお客様はすごく喜び、スタッフもその笑顔を見てモチベーションがぐっと上がる。ただ、会社としては訪問に使った数時間分の給料が発生する一方、お客様からお金を取りにくい。なかなかマネタイズができなくて持続しなかったのです。

今回の「ことむすび」という事業の発端は牛乳宅配事業者の生き残り策ですが、将来的には地域のことも見据えています。そのためにも、まずは牛乳宅配事業者としての継続性の確保が必要です。乳製品だけでは終わらず、お客様に価値を届けるとともに、パートナーとして組んでいるベンチャー企業にも価値を届ける。もの売りからコト売りへシフトするために始めたこの事業で、これから「牛乳屋さん」と地域の将来に道筋を付けられればと思っています。