地方と都市部の教育格差を解消しようとする活動がある。宮崎県日南市で行われている「にちなん起業体験プログラム」は今年(2021年)、2年目を迎えた。中学生・高校生を対象に起業体験を提供する、半年間の教育プログラムである。中身はかなり本格的で、中高生たちが実際にお金を使って商品を企画し販売活動をすることが特徴だ。にちなん起業体験プログラムを通じて、これからの地域、これからの日本に求められる、教育の新しい在り方を探る。

地方と都市部の教育格差をなくし、子どもたちや若者に多様な機会を提供したい──。このような思いをもって、宮崎県日南市を拠点に、若者向けのキャリア教育に取り組んでいるのが羽田野祥子さん。フリーランスの教育プランナーで、宮崎県キャリア教育支援センターのコーディネーターなども務める。熊本県の出身で、都内の大学を卒業後、人事系企業や教育NPO勤務を経て、宮崎県に移住した。地方と都市部の教育格差を解消することを目標に、キャリア教育やプロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)、各学校の教育支援に従事している。

羽田野さんが企画・運営を担う「にちなん起業体験プログラム」(主催は日南市ローカルベンチャー事務局)は今年(2021年)、2年目を迎えた。中学生・高校生を対象に起業体験を提供する半年間の教育プログラムである。なお羽田野さんは、この10月に始まる宮崎県主催の中高生向け起業体験プログラムの企画・推進にも携わっている。

教育格差は古くて新しい課題である。保護者の学歴・収入により生じる格差はもちろん、地域の差異による格差も指摘されている。そんな中、中高生へのキャリア教育、しかも実際に出資を募り「商品を企画し販売する」という実践的なアプローチを進めるこの取り組みは、興味深い。

日南市は地域おこしで全国的にも有名な自治体である。同市の中心街である油津(あぶらつ)商店街へのIT企業の誘致をはじめとした取り組みは「日南の奇跡」とも呼ばれており、2017年には安倍晋三元首相が自身のスピーチで「地方創生」政策の代表例として取り上げた。

以下、羽田野さんらが日南市で取り組むキャリア教育の活動を概括しながら、未来を支える子どもたち、そして日本の各地域に提供しうる、新しい教育のアプローチを見ていこう。

羽田野祥子(はたの・しょうこ)氏
羽田野祥子(はたの・しょうこ)氏
教育プランナー。熊本県出身。大学入学に伴い上京、在学中から大学生向けの国際インターンシップ活動に従事。卒業後はウィルソン・ラーニングワールドワイド、NPO法人NEWVERYに勤務し、企業の新卒採用支援、教育機関の学生募集支援、大学生の中退防止支援など「働くこと」や「採用すること」にまつわる事業や業務に一貫して携わる。2017年に宮崎県に移住。2018年に独立し教育プランナーとして活動中(写真提供:羽田野氏)

中高生自ら出資者を集め、商品を売る

にちなん起業体験プログラムの特徴はいくつかあるが、最大のポイントは、商品の企画や販売、そして出資者への利益還元(配当)まで、一貫して中高生たちが体験し携わるところにある。

大まかな流れは次のような具合だ。プログラムに参加した中高生たちは3人から6人前後のグループを組み、グループごとにビジネスアイデアを練り、どんな商品をつくるかを話し合う。その後には事業計画を発表し、投資家の役割をする大人たちから出資金を募る。擬似的な株式会社をつくる格好だ。

次は、集めた出資金を元手にした商品づくりとお店づくりに当たる。材料や商品を仕入れて、販売計画やPRの検討をした上で、値付けとパッケージングを施してテスト販売を実施する。初めての実施となった2020年度のプログラムでは、中高生たちは日南市内のショッピングモールに出店し、そこで自ら接客販売を実施した。

そして、テスト販売の結果を踏まえて、オンラインショップを設けてネット上で商品を販売する。商品の発送も中高生自身が行う。プログラム終了時には決算処理をして出資者に配当金を分配、全体レビューを受ける。

昨年(2020年)度のプログラムには14人の中高生が参加し、3つのグループに分かれてビジネスに取り組んだ。どのグループも5万円から6万円程度の売り上げを挙げ、一番利益を上げたグループは出資者ひと口1000円あたり1436円を配当したという。

各地で若者向けのキャリア教育プログラムが展開されているが、職場体験あるいはビジネスプランの企画段階までというケースが多い。一方、にちなん起業体験プログラムは参加者たちが販売活動までも手がける。事業の流れをトータルで体験できる内容になっている点が特徴だ。