アフリカの貧困問題に取り組んでおり国際的なレベルで注目されている日本人起業家、牧浦土雅氏。同氏は今、現地でスマート農業に力を入れている。事業のポイントは、小規模農家を組織化しつつデジタル技術を適用していること。農作業の効率化と同時に各農家の与信情報を蓄積し、生産プロセスや資金繰りを含めた農業全体の高度化を試みているのが特徴だ。今後はセンシング技術の導入によりさらなるステップアップを目指す。日本発のスマート農業技術が、課題多き土地であるアフリカでどのように適用されようとしているのか。牧浦氏の話を通じて社会課題の解決に向けたテクノロジーの活用方法を探る。

アフリカでの「スマート農業」に着手した日本人がいる。かねてアフリカの貧困問題に取り組んでいる牧浦土雅氏だ。2012年に19歳で途上国の教育格差解消を目指すNPO「e-Education Project」のルワンダ代表となり、同国で活動を続けてきた。

牧浦氏は2018年に農業関連事業を運営する企業・Degas(デガス)を立ち上げた。この企業を通じて目指すのは、ガーナなどサハラ砂漠以南のアフリカ(サブサハラアフリカ)における小規模農家6億人の所得の向上である。

同社では、農業資材への投資ができずに非効率な農業を続ける小規模農家に向けて、いわゆる「農協」活動を展開して各農家を組織化、さらには各農家の情報を集めてデータベース化を進める。その上で、種子や肥料といった農業資材を融資して営農指導を行い、収穫物で返済してもらう。同社は融資先農家で生産された国内でも最高品質の収穫物をネスレなどの世界最大手のバイヤーへ販売し利益を得る。

こうした事業を展開する中で、同社はセンシング技術を活用するスマート農業の実用化に向けた実証実験を開始した。具体的には、作物の樹液流をセンシングし、無線で受信機へとデータを飛ばす「植物モニタリングシステム」の実用化を目指す。同システムには、無電源センシングの研究を進めている立命館大学理工学部電子情報工学科の道関(どうせき)隆国教授が開発した「樹液発電」技術を適用する。これにより電源供給のない畑においてもシステムを動作させられるという。

“最先端”といえる日本発のスマート農業技術は、インフラ整備の面でも人材教育の面でもまだ課題が多いアフリカで、どのように活用されているのか──。牧浦氏へのインタビューを通じて、社会課題の解決に向けたテクノロジーの活用方法を探る。

「本質的には何も変わっていない」、変革を志して起業へ

──Degas設立の経緯とこれまでの取り組みについて教えてください。

牧浦氏(以下敬称略):そもそものきっかけは、2018年の夏、5年ぶりに以前住んでいたルワンダの村に戻ったところ、何も発展していなかったことでした。他方、都市では新しく世界最大ホテルチェーンのホテルが建ったり、中国マネーでイベントセンターができたり、著しく発展している。この都市と地方、農村部との格差が拡大しているという点にとても驚きました。もちろんその5年の間、同国・同大陸では財団から大企業、国際機関まで様々な組織が活動していたのに、本質的には何も変わっていなかった。

マクロで見ても、この30年間で世界の貧困層人口は激減したにもかかわらず、サブサハラアフリカだけは増加している。このままだと、2030年までに世界の貧困層の10人中9人はサブサハラアフリカから来るとも言われています。これは今までとは違った方法で変革をしていかなければならないのではと考え、創業に至りました。2018年11月に私が日本でDegasを立ち上げ、実質的な事業は2019年3月に西アフリカ・ガーナでスタートしました。

牧浦土雅(まきうら・どが)氏
牧浦土雅(まきうら・どが)氏
2012年以降、東アフリカはじめ5カ国以上(ルワンダ、インドネシア、フィリピン)に住み、教育からオンラインヘルスケアまで幅広い事業を立ち上げる。13歳で単身渡英し、ボーディングスクール入学。ブリストル大学中退。第28回国家戦略特別区域諮問会議に出席し、サンドボックス特区創設を首相・関係閣僚に提言。趣味は農学と観世流能楽。2020年7月、ガーナ・アクフォアド大統領から感謝状を受領。Wedge『平成から令和へ 新時代に挑む30人』等に選出(写真:Degas)

ブレイクダウンしてみると、課題は2つに集約されることが分かりました。1つは、貧しい農家さんばかりで農業が事業化されていない点。サブサハラアフリカの人口の大半が1日2ドル以下で生活していて、さらに労働人口の6~7割が1~2エーカー(1エーカーは4047m2、約0.4ha)しか持っていない小規模農家であるということ。しかも、この農家の生産性が低い。世界的に見てもサブサハラアフリカの1haあたりの生産量は世界平均の4分の1~3分の1と、最も低い状況です。その農家の所得を上げていかない限り、このサブサハラアフリカが貧困サイクルから脱却することはできないと考えています。そこで、農家の所得向上を我々の事業における一番のミッションに掲げました。

もう1個の課題が、与信形成を可能とする手段がなく、農家が金融機関からの融資を受けられない点です。前述したように生産性が低い、つまり農業が事業化できていません。また農家の教育水準を見ますと良くて中学校程度の教育しか受けておらず、もちろんスマートフォンもない。こういった状況なので与信形成ができないというか、そもそも与信になるデータが本当にない。

この2つの課題の解決に向けて、まずは「Degas Farmer Network(DFN)」を作りました。簡単に言えば「農協化」です。ガーナを含めたサブサハラアフリカの農業では、一人ひとりがそれぞれのエリアでそれぞれ農作物を作り、それぞれ違うパートナーと取り引きして農業を行っている状態でした。それを組織化し、組織で戦えるようにしようと考えました。

そして、約200~250農家に1人、我々のフルタイムスタッフであるエージェントを付けています。各農家には1枚ずつ、IDカードとなるNFCカードを配布しました。それをベースにエージェントを通じて各農家の個人情報をすべて入力して、データベース化しています。このデータが名前や生年月日、住所など、いわゆるKYC(Know Your Customer)、つまり銀行で融資を受ける際などに必要となる本人確認の情報となります。これに加えて我々の場合は農地面積、作っている作物、教育水準や世帯人数、農地の位置情報(GPS)などの情報も加えています。

個別の小規模農家を組織化し、各農家にはIDカードとなるNFCカードを配布している。カードを使って農家のデータ管理を進めている(写真:Degas)
個別の小規模農家を組織化し、各農家にはIDカードとなるNFCカードを配布している。カードを使って農家のデータ管理を進めている(写真:Degas)