水を燃料にした推進エンジンの開発

東京大学発の宇宙スタートアップであるPale Blueは、小型人工衛星に搭載する独自の水エンジンを開発している。東京大学で10年以上水エンジンの開発に関わってきた共同創業者兼代表取締役の浅川純氏は、「宇宙機用の推進エンジンには、安全性、持続可能性、低コスト性の3つが必須要件として求められる」と述べる。「安全性の面からは、水は可燃性もなく安定性も高い。持続可能性に関していえば、水は地球上に存在している使用可能なエネルギー源であり、他の物質と比べて圧倒的に生産量が多い。さらに、水はコストも低くて済む」(浅川氏)。

Pale Blueでは、現在3種類の水エンジンを作っている(写真2)。1つが、液体の水を水蒸気にしてその水蒸気を宇宙空間に高速に吐き出すことで推進力を得る「レジストジェットスラスター」。水タンクや蒸発機構、コントローラなどすべてが入ったモジュール型となり、ユーザーはモジュールを衛星に搭載してコネクタを挿すだけで使うことができる。次が、水を燃料にしたプラズマ式推進機「イオンスラスター」。水を水蒸気にするところまでは「レジストジェットスラスター」と同じだが、そこにエネルギーを加えて生成したプラズマを吐き出して推進力を生成する。最後が、それら2つの方式を1つのモジュールに結合した「ハイブリッドスラスター」だ。これらの水エンジンで共通に利用されるのは、20℃から30℃という低温で水を水蒸気に変え、低い電力でプラズマを生成できるという、浅川氏が東京大学時代に開発した独自技術だ。

(写真2)Pale Blueが開発した水エンジン。左が水蒸気を吐き出して推進力にする「レジストジェットスラスター」、右が水を燃料にしたプラズマ式推進機「イオンスラスター」(写真撮影:元田光一)
(写真2)Pale Blueが開発した水エンジン。左が水蒸気を吐き出して推進力にする「レジストジェットスラスター」、右が水を燃料にしたプラズマ式推進機「イオンスラスター」(写真撮影:元田光一)

それぞれのエンジンの特徴として、「レジストジェットスラスター」は短時間で大きな推進力を出せるが、燃費はあまりよくない。逆に「イオンスラスター」は推進力は弱いが燃費が非常によく、「ハイブリッドスラスター」は状況に応じて大きな推進力を出したり高燃費での移動もできる。そうやって、各エンジンの特徴を生かせば、さまざまな用途に応じた衛星への搭載が選択できるという。対応する小型衛星は、小さいもので4kg程度、大きいもので150kgを想定している。「現状の小型衛星のように、燃料がなくなったら廃棄するのではなく、将来的には宇宙空間で燃料としての水を補給するサービス事業などにも乗り出したい」(浅川氏)。

今後の計画として、2022年には複数の小型衛星に水エンジンを搭載して打ち上げて実証を行い、2030年から2050年までには実用化を目指すという。