ロボットの活躍が期待されるフィールドは無限にある。なかには、現時点では想像できないような分野にも、ロボットの活用は進んでいくだろう。その可能性を握るロボット技術が、自己増殖だ。まるで生き物のように自ら増殖していくロボットが製造されれば、どんなことが可能になるのだろうか。現在バイオ分野で、その手がかりになりそうな材料の開発などが進んでいる。

産業用ロボットが登場した頃からロボットの外観に関する既成概念は薄れてきたが、ロボットと聞いて最初に思い浮かぶ姿といえば、2本脚で移動する人間のような姿をした機械だろう。「ロボット(Robot)」という言葉が1920年にチェコスロバキアで生まれて以降、ロボット工学の分野ではその実現に向け大きく3つ課題が上げられてきた。1つめの課題は「2足走行」だが、これに関してはまだ実用的とは言えないものの、技術的には実現可能なレベルになってきた。2つめの課題とされている「自律的な行動」についても、AIの進化によって徐々に実装されつつある。残された3つめの課題は、ロボット工学における究極的目標とも呼ばれている「自己増殖」。すなわち、まるで生物が子孫を残すように、自分自身のコピーを作って増えていくというシステムだ。

このような自己増殖型ロボットは、「コンピュータの生みの親」とも呼ばれるフォン・ノイマンが提唱したことから「フォン・ノイマン・マシン」とも呼ばれている。その実現には「材料を調達する能力」「部品を製造する能力」「安定な動力源」「新たに組み立てたロボットをプログラムする能力」などが必要になると言われている。とはいえ、現時点ではまだ自己増殖ロボットをどのように実現するのかについての具体的なイメージが見えてこない。

一方で、すでに活躍しているロボットも含めて、現在開発が進んでいるほとんどのロボットは金属のような無機化合物の材料で作られている。こうした材料の大量調達には工場が必要になるため、ロボット自身が「材料調達」から「部品製造」までを行うことには必要性が感じられない。

しかし、ロボットを構成する材料が有機物だったら、自己増殖の可能性は高くなりそうだ。すでに、そのようなロボットの開発に、いくつかの研究グループが取り組んでいる。

プログラミング可能な新しい生命体

バーモント大学、タフツ大学、ハーバード大学ヴィース研究所の研究者らは、直径650~750ミクロンの再構成可能な生体ロボット「xenobot」を開発したと発表した(写真1)。

(写真1)「xenobot」は水環境で数日から数週間生き続ける生体ロボット(出典:Douglas Blackiston、Tufts University)

研究では、まずバーモント大学がスーパーコンピュータで単方向の歩行能力を備えた生命体のデザインを設計し、基本的な物理的要件も考案した(写真2)。次に、数千にものぼったデザイン案の中から、最善と考えられたデザイン案を元に、タフツ大学で基本となる生命体が作られた。その生命体は、アフリカのカエル「Xenopus laevis」の胚から幹細胞を抽出して基本的な生物学的構成要素を得ており、そのことがxenobotの名前の由来になっている。

(写真2)バーモント大学で設計された生命体のデザイン(左)と、カエルの皮(緑)と心筋(赤)の細胞だけで作られたxenobot(右)(出典:Sam Kriegman、UVM)

その後に、スーパーコンピュータによって設計された案に従って特殊な細胞を成長させ、丈夫な皮膚細胞を持ち、心筋細胞の収縮と拡張によって移動する生命体が作られた。

xenobotは実験では細胞内のエネルギーを使って、数日から数週間のあいだ水環境を動き回った。一方向に移動して、小さな塊を押し出すことも可能であることが観測されている。半分に切断されると、自動的に自分自身をつなぎあわせて再生することまで観測された。

バーモント大学で研究に関わったJoshua Bongard氏は、「xenobotは伝統的なロボットでも既知の動物種でもなく、プログラム可能な生きたロボットである」と語る。薬などの化学物質を送る小袋をxenobotに装着することも可能で、ロボットとして実用化されれば、プログラミングによって生物の体内に薬物を送るなどの活用が考えられている。