身体を動かす仕組みを知り、効果的なリハビリを

初めての自転車。誰もがうまくは乗れない。しかし繰り返し練習するうちに、転ばずにこぎ進められるようになる。理論的な学習はせずとも、身体が徐々にバランス感を覚えていく。このように言葉ではうまく言い表せない身体の働きを「暗黙知(タシットナレッジ)」と呼ぶ。この暗黙知とその習得の仕組みを解析すると、リハビリテーションに役立つのではないか。理研BSI-トヨタ連携センターは、こう考えている。

暗黙知を解析するには、生物がどういった制御系を持っているのかを知る必要がある。知能行動制御連携ユニットでは、脳内の情報処理や学習、適応というメカニズムが、本質的にどのようになっているのかを解明する研究に取り組んでいる。人が身体を動かす際に、脳がそれぞれの筋肉をどのように制御しているのかを明らかにし、それを人工的に再現することを目指している。

一般に、脳卒中による障害から身体機能を回復させるには、新しい運動の学習が効果的だと言われる。つまり、今までできていたことを積み重ねていくことである。ただ、脳卒中によって脳の一部が壊れると、今までできていたことができなくなる。したがって、「学習という方法をとるのではなく、脳の壊れたところを修復してあげれば身体の機能はもとに戻るかもしれない」(知能行動制御連携ユニット ユニットリーダー 下田真吾氏)。

知能行動制御連携ユニットでは、半身麻痺した脳卒中患者の脳活動と筋肉活動を同時に測定し、脳卒中によってダメージを受けた部分を探し出す実験を行った(図2)。目的は、ダメージを受けていない部分を最大限活性化する動作や刺激を入力することによって、効率的なリハビリテーションを行える手法を開発することだ。

(図2)肩の三角筋の筋電位
半身麻痺した脳卒中患者にいくつかのパターンで両腕を同時に動かしてもらい、左右の腕12カ所の筋電位を計測した結果、ダメージを受けた側(麻痺側)では肩の三角筋が上腕二頭筋と連動しているが、受けていない側(健常側)では連動が見られなかった(国立長寿医療研究センターとの共同研究)。(理研BSI-トヨタ連携センターより提供)

ニューロリハビリの研究成果は運転支援にも有効

ニューロリハビリの研究は、トヨタが進めているリハビリロボットの研究にも応用されている。また、患者の状態に合わせてリハビリテーションのやり方を変えていく研究は、ドライバーの能力に合わせて運転支援の仕方を変えていくニューロドライビングの研究にも応用され、2つのテーマが相乗効果を生み出している。

今後、暗黙知の仕組みが解析され、生物の体がどのような原理原則で脳からコントロールされているのかが分かったら、ハンドル操作やブレーキ、アクセルを踏んでいる様子から、ドライバーの心理状態を推察できるようになるかもしれない。例えば現在の市販車に搭載されている安全運転支援システムでは、センターラインをはみ出したときには警報を鳴らせる。ただ、それが居眠り運転ではみ出たのか、追い越しなどドライバーの意志ではみ出そうとしているのかまでは自動判断できない。その判別までできれば、ドライバーの心理状態に応じて警報を鳴らすことができるかもしれない。

また、運転中の反応のタイミングや視線の動きでドライバーの集中度合いを知ることができれば、高齢者の運転評価にも利用できるだろう。