国際賞金レースを仕掛けて取り組み活発化を促す

アバターロボットを実現させるには、ロボティクス、VR、AR(拡張現実)、センサー、ハプティクス(触覚)、通信など、さまざまな先端技術を組み合わせる必要がある。しかも、それぞれの技術分野で、アバターロボットに適したものを作らなければならない。そこで、ANAでは国際賞金レース「ANA AVATAR XPRIZE」を開催して世界的な関心を引き付け、より早くこれらの技術を融合させてアバターロボットの実用化に導きたいと考えている。

賞金総額1000万ドルとなるANA AVATAR XPRIZEは、2018年3月12日から4年間にわたって開催される。レースの実施内容については今後変更される可能性もあるが、当初は「災害救助」「介護」「特殊作業」という3つのシナリオが用意される。それぞれのシナリオには3つのレベルがあり、各レベルに応じた複数のタスクをこなせたかどうかで点数が付けられる。

レベルが上がるごとに足切りがあり、得点が低かったチームはふるい落とされる。最終的にすべてのシナリオを全部クリアした、得点の高いチームが優勝となる。重要なポイントは、訓練していない人が遠隔操作してすぐに操れること。最終的には、「子どもから高齢者まで自然に使ってもらえるものにしたい」(ANAホールディングス デジタル・デザイン・ラボ チーフ・ディレクターの津田佳明氏)との考えだ。

レースは2021年10月が本戦で、その前の2020年に1次予選、2021年に2次予選が予定されている。この取り組みを通じて、簡単な作業から特殊作業までを1体でできるアバターロボットの開発を支援する。津田氏の思いは、「賞金レースのようなビジョンを示すことによって、個別に研究を行ってきた技術者が集まりロボット開発が進んでいく。そこに大きな意義がある」ということである。

ANAは並行して、もう1つの開発支援にも取り組んでいる。アバターロボットの実現に必要な要素技術のうち、既にさまざまなベンチャー企業が開発したものを、リアルの場で実証する取り組みだ(写真1)。大分県をテストフィールドにして、アバターロボット実用化によって想定される、さまざまなサービスの実証を行う(写真2)。プロトタイプを作る開発費用がないベンチャーに対しては、「ANAのクラウドファンディングを使って資金集めを支援する」(ANAホールディングス デジタル・デザイン・ラボ アバター・プログラム・ディレクターの深堀 昂氏)。

(写真1)メルティンMMIが提供する生体信号処理とワイヤー駆動式ロボットハンドの技術
(メルティンMMIのホームページから引用)
(写真2)遠隔で漁業や海中での作業を行う実験
メルティンMMIの技術が使われている。(ANA AVATARのホームページより抜粋)

医療、教育からエンタメまで、広がる適用先

アバターロボットが提供するサービスは、娯楽/エンターテイメントだけではない。医師がいない村にアバターロボットを置いて遠隔診療を行ったり、宇宙空間などで人間に代わって作業をさせることも可能になるかもしれない(写真3)。これまでANAのビジネスは、航空機を利用する人にしかフォーカスができなかったが、アバターロボットによって「医療や教育、宇宙開発、エンターテインメントなど、さまざまな分野にフォーカスした新ビジネスを展開できる」(津田氏)。

人間と同様のことを1体で実現するアバターロボットの実用化はまだ先だが、大分県佐伯市の海上釣堀を利用したアバターでの釣り体験(写真4)や「沖縄美ら海水族館」をアバターで楽しむサービスなどについては、2018年10月頃から順次実証実験を開始し、2019年4月からのサービスの開始を目指している。

(写真3)宇宙環境を模した実験も大分県で行われる
採掘場跡や土地を活用し、月面等の宇宙環境を模擬した施設を産官学で連携しながら建設する予定。(ANA AVATARのホームページより抜粋)
(写真4)アバターで沖縄美ら海水族館を楽しむサービス

アバターロボットは人を置き換えるのではなく、人を拡張する技術だ。筐体を人間より小さな体にすることも、大きな体にすることもできる。内服薬のように小さくすれば、人間が口から飲めば体内をアバターロボットの医者が治療することも可能だ。逆に数メートルくらいの大きさにすれば、レゴブロックのように建築物を作ることができるかもしれない。