人に代わって働くロボット。そういう捉え方から考えると、「クルマを自律運転するロボット」というアイデアも成り立つ。現在、世界中で進められている自動運転の研究/開発はクルマとしての進化だが、そうではなく運転手の仕事をロボットに任せるという発想である。用途・場面によっては、そういうロボット活用もありそうだ。

道路を走る車がすべて自動運転車になったら、交通事故や混雑が少なく安全で効率的な交通網が構築されるかもしれない。特に超高齢化社会の入り口に差し掛かっている日本にとっては、その実用化は待ったなしだ。とはいえ、今ある車がすべて自動運転車に置き換わるまでには、技術的に見てもまだ時間がかかる。

ならば、人間の代わりにロボットが乗り物を運転すれば、既存の自動車を自動運転化できるのではないか――。そうなれば、趣味で所有しているクラシックカーなど、既に所有しているクルマを自動運転モビリティに変えることもできるかもしれない。これを応用していくと、クルマを乗り換えても同じロボットが運転する、運転以外の作業もロボットが支援するといった、まさに執事のようなロボットを実現できる可能性が広がる。

実は、運転を代行するロボットについては、実際に取り組みがある。開発に取り組んでいるのはヤマハ発動機。自動車ではなく市販のスポーツバイクを運転する人間型自律ライディングロボット「MOTOBOT」を開発している(写真1)。2輪車の運転は4輪車よりも複雑で、複数の制御を瞬時に行う必要があるため、MOTOBOTの技術はいずれ4輪車の運転に応用することもできるかもしれない。

時速200kmの高速走行に挑む人間型ロボット

MOTOBOTは人間のようにバイクにまたがり、右手の指でアクセルを握りブレーキレバーにも指をかけ、左手の指でクラッチレバーを握る。そして右足でブレーキを踏み、左足のつま先でシフトチェンジを行うといった、人間の通常の運転と同じ操作を自律的に実行してバイクを制御する(写真2)。MOTOBOTが運転するバイク側には手は加えていない。

同社がMOTOBOTの開発に着手したのは2015年のこと。もともと産業用ロボットを作っていたが、その技術と2輪車製造の技術をミックスして、なにか新しいことができないかと考えたことがきっかけとなった。ライダーがバイクを操作するアクションやハンドル操作が車体にどういった挙動として現れるか、ライダーのアクションと車体の関連を紐解き、より安全なバイクを作ることに期待した。

2015年に開発を決め、その年開催された東京モーターショーに出展するまでの10カ月足らずで時速100kmでの走行を可能にした。その後改良を重ね、2017年の東京モーターショーが開催される頃には、最高時速200km以上でサーキット走行できるまでになった。

ボディが完成するまでは、事前にシミュレーションによる走行実験を行っている。200kmくらいの高速走行になると、2輪車は一瞬の操作ミスによって転倒による大事故を引き起こしてしまう。「何台も作れるものではないので、転倒しないようシミュレーションで慎重に調整した。それでも、実車での実験中に大きな転倒が3回あった」(先進技術本部NV事業統括部 主事 森田浩之氏)。

MOTOBOTを開発するにあたりヤマハ発動機が目標したのは、プロのオートバイレーサーであるバレンティーノ・ロッシ選手が持つ、サーキットでのラップタイムに近づくこと。ロッシ選手はロードレース世界選手権に参戦以来、15年間で9回のワールドチャンピオンを獲得しているトップクラスのレーサーだ。現時点では、1周約2分かかるサーキットコースにおけるラップタイムの比較で、まだ30秒くらいの差がある。とはいえ、これは一般的なアマチュアライダーとは比較にならないほど速い。「プロのレーサーじゃないと、バイクで時速200kmまでのスピードはなかなか出せない。ロボットには怖さがないので、限界まで挑むことができる」(森田氏)。

(写真1)最高時速200kmでサーキットを走行する人間型自律ライディングロボット「MOTOBOT」
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(写真2)ヤマハ発動機が開発した人間型自律ライディングロボット「MOTOBOT」
ロボットのボディにはカーボンを多用し、体重は45キロと小柄な人間くらいまで軽量化している。