人類は太古の昔から死への恐怖と戦ってきた。そして、「たとえ体が消滅しても、魂という形で意識だけでも永遠に生き続けたい」と願い、さまざまな信仰や儀式などが誕生した。その願いが、デジタル技術によって叶えられる時代が来るかもしれない。ただし、魂として生きるのではない。デジタルデータとしてクラウド上で生き続け、言葉の意味は異なるがまさに“雲の上の存在”になるのだ。

そもそも、有機物で構成されている以上、人間の体は寿命からは逃れられない。どんなに長寿になっても必ず人体には限界が来る。もし永遠に生き続けたいと願うならば、SF映画などでたまに見られるように、脳を取り出してロボットに移植する、いわゆる「サイボーグ」になるなどのアプローチが必要である。ただ、脳の移植先となるロボットについては、上半身、下半身、頭部などパーツごとに研究が進んでいるが、人間と同じような機能と容姿を持つようになるまでにはまだ時間がかかりそうだ。脳細胞にも寿命があることを考えれば、この方法では永遠に生き続けることは難しいかもしれない。

では、それまでに蓄積された脳の記憶自体をデジタル化してメモリーに保存し、人工知能(AI)でその記憶に基づいて人格を構築できればどうだろうか。それなら、劣化したパーツを入れ替えながらロボットとして永遠に生き続けられるかもしれない。

もちろん、それは本人が生き続けている意味にならないとか、そこまでして永遠に続く人格を作る意味は何かといった議論はある。ただ、現実に、脳の記憶をデジタル化してクラウドにアップロードするテクノロジーが注目され、研究が進められているのだ。

脳のデジタル化で実現するデジタル来世

アメリカのベンチャー企業Nectomeは2018年4月、2024年以降の開始を目指した、とんでもないサービスを発表した。人間の脳を生存している状態で取り出し、将来コンピューターに脳の記憶がアップロード可能になるまで保存液に浸して、長期冷凍保存するというものだ。生存している状態で脳を取り出すことになるため、元の体はもう人間として生き続けることはできない。すなわち、サービスを利用するには「安楽死」を受け入れなければならない。

サービスが発表された段階では、豚を使った実験で脳の保存には成功しており、シナプスも完璧に確認できているという。2024年以降に開始するとしているサービスは、これを人間向けとして提供するものだ。費用は1万ドルと、比較的安価で利用できることから、既に20人以上の予約があると発表されている。

生きたまま脳を取り出すことに関し、米国内でも各方面から倫理上の問題を指摘する意見が上がっていおり、本当に実現できるかどうかは微妙なところである。技術面を含め、Nectomeの取り組みはまだまだ“眉つば”と言わざるを得ない。ただ、これに近い分野の研究は、ほかにもある。

マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボで研究されているプロジェクト「Augmented Eternity」は、Netcomeが提供するサービスのように脳を取り出す必要はない。人間の脳そのものをデジタル化するのではなく、生前からさまざまな行動や発言をデジタルで記録しておき、死後に備えてデジタルアバターを作成するソフトウェアを開発している(図1)。

(図1)Augmented Eternityが提供するアプリケーションのサンプル(MITメディアラボのWebページより引用)

アメリカでは、他にMITの起業家養成プログラムから生まれたスタートアップEternimeなども、Augmented Eternityと同様に生前から情報を保存しておくことで、自分の死後もアバターがネット上で生き続けるサービスを提供しようとしている。サービスを発表してから数年で、既に4万人以上が順番待ちに登録しているが、まだ限定的なベータ版しかリリースされていない。

これら、デジタルとしてネットワーク上で生き続けることを「デジタル来世」と呼ぶ。自分そのものではなく、デジタル化した記憶に基づいてコピーの人格が生き続けるわけだ。