ロボット技術で人間の可能性を広げる

ロボットを活用するもう一つの新たなアプローチが、身体を拡張するエンラージだ。社会的な労働力不足の解決に、ロボットを人間の代わりに道具として使うという考え方もある。しかし、それでは人間自身の生産性を向上させたり、可能性を広げることはできない。早稲田大学 教授 グローバルロボット アカデミア研究所 所長の岩田浩康氏は、「自分一人では仕事ができないと感じた時に身体を拡張できれば、その人の生産性を高め、さまざまな可能性を広げられる」と考えている。

現在岩田氏が研究しているのは、人間が自由に操れる第3の腕だ。「第3の腕を自身の体の一部として操れるようになると、生活の中でもさまざまな実益が得られる」(岩田氏)。例えば、両手でモノを抱えたままドアを開けたり、料理の際に両手でハンバーグの具材をこねながらテーブル上の調味料を取ったりできる。怪我をして両手で杖をついていても、もう第3の腕で傘をさすことだってできる。

第3の腕を使った身体拡張のポイントは、意のままに腕を操れるかどうか。「意識せずに指示できたり、ちょっと指示をしたらあとは半自動で動いてくれるような技術を目指す。3本目の腕を自分の体の一部と感じる、身体所有感も重要だ」(岩田氏)。

試作機ではアイグラスをかけ、顔を向けるだけでそこにある物体に対して何かを指示できるような仕組みを開発した。例えば、顔を向けた方向にあるボールを見つめたまま「とって」というだけで、アームがそれをつかんでくれる。ものをつかむ指先の部分は柔らかい素材でできていて、対象物の形に合わせて変形する。

人間の生産性を向上させるシーンとして、例えばビスを使って天板を取り付ける作業がある。この作業ではドリルを使って穴を開け、そのまま天板を固定したままビス止めしなければならず、通常は2人で行う。第3の腕を使えば、こうした作業を1人で完結できる(写真2)。

(写真2)ドリルを使って天井ボードにビス止めをする作業は通常2人で行う(左)が、第3の腕を使えば1人で行えるようになる(右)

ロボット活用の新たなアプローチを具現化する取り組みが加速

このように、人間の心を豊かにしたり、可能性を拡張したりするロボットの創造を産産連携・産学連携によって支援する取り組みとして、パナソニックは東京と大阪に共創型イノベーション拠点「Robotics Hub」を立ち上げた。千葉工業大学、東京大学、東北大学、奈良先端科学技術大学院大学、立命館大学、早稲田大学という6つの大学と企業との連携によって共同研究を進め、生活や仕事を楽しくするエンラージと日常生活を豊かにするエンリッチの2つのアプローチで次世代ロボットの早期実用化を目指す。

前述のマルチモーダルな刺激を与えるロボットや、第3の腕を提供するロボットもRobotics Hubで研究・開発が進められる。パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 本部長の小川立夫氏は、「これまでは主に工場などの産業用分野において、現場の自動化や高度化を行うロボットの開発が主体だった。そのようにロボットを道具として利用する時代から、現在はロボットをパートナーとして活用する時代へと移りつつある。今後はロボットの提供価値を“自己拡張 (Augmentation)”と位置づけ、人生100年社会を豊かなものするロボットを提供していきたい」と述べる(図1)。

(図1)パナソニックが目指す未来に向けたロボットの提供価値