医療分野では、米国のインテュイティブサージカルが開発した「ダヴィンチ」のように、手術を支援するロボットの活躍が期待されている。今のところ、ダヴィンチに代表される手術支援ロボットの操作には専門の医師によるサポートが必要だ。一方、未来の社会では、医師に頼ることなく、マイクロサイズで日頃から人間の体内に常駐して健康を保ってくれる、体内ドクターが実現するかもしれない。これまで、さまざまなSF映画などで描かれてきたマイクロロボットの研究は、どこまで進んでいるのだろうか。

究極は日頃から体調を見守る体内主治医

アメリカでは1960年代に「Fantastic Voyage」というタイトルで、人間の体内に入り込んで、体の中から脳の内出血を治療するというストーリーの映画が制作された。日本でも「ミクロの決死圏」という邦題で公開され、その大胆な発想が大きな話題を呼んだ。Fantastic Voyageでは、マイクロサイズまで小さくなった潜航艇に、やはりマイクロサイズの医師らが乗り込み、血管を通って脳にたどり着いて治療を施す。最後は涙とともに体外に排出されるという、今考えても斬新なストーリーだった。

人間そのものをそこまで小さくする技術については、恐らくこの先も実現されることはないだろう。Fantastic Voyageにおいても、実際に体内で治療するのは潜航艇であり、この潜航艇が体外から制御できるようになれば、人間が乗り込む必要はないからだ。

Fantastic Voyage以降も、マイクロサイズのロボットが人間の体内に入って治療するというシチュエーションは、さまざまなSF映画などで描かれている。そしてその先に待っているのは、常に体内で待機して必要な治療を施してくれる、体内主治医とも言えるマイクロロボットの実現だろう。日頃から体内をパトロールし、ウイルスの侵入やがん細胞によって正常な細胞が破壊されようとしていたら、攻撃してくれる。あるいは、血管内に血栓ができたら、それを取り除いてくれる。そんなマイクロロボットだ。

体内でロボットを動かすエネルギーをどう確保するか

現実に目を向けると、血管の中を移動できるほどの大きさのロボットについては、まだまだ研究途上だ。だが、口から飲み込んで胃や腸などの映像を外部に送る、錠剤サイズのカプセル内視鏡はすでに実用化されている。カプセル内視鏡を使った検査については、日本でも多くの医療機関で状況に応じて保険適用でも実施できる。

ただし、現時点で検査に使われているカプセル内視鏡は、その動きを体外から自由に制御できるところまでには至っていない。あくまでも食物のように、口から入って食道や胃、腸などを通り、自然に肛門から排出されるのを待つしかない。後ろに戻ったり、任意の場所に止まったりすることもできない。現時点でのカプセル内視鏡はロボットとは呼べず、あくまでも超小型デジタルカメラの役割しか持っていないのだ。

もし、カプセル内視鏡くらいの大きさのデバイスでも、人間が外から遠隔操作できるようになれば、内視鏡によるポリープ除去手術のように、体内ドクターロボットとして活躍できるかもしれない。そのように、人間の体内に入ったデバイスを体の外から操作して動かそうとする研究は、さまざまなアプローチで進められている。

人間の体内でロボットを動かすための課題の1つが、エネルギー源の確保だ。体内に入れるロボットにケーブルを使用して電力を供給するようでは、ケーブルが邪魔になって自由に動き回れない。カプセル内視鏡のように小さな電池やバッテリーを積む方法だと稼働時間に制約があるし、万が一体内で電池が露出した場合は人体への悪影響を及ぼしかねない。

そこで、考えられるのが、ロボット自身が体内で発電してエネルギーを作り出す方法、あるいは体外から非接触の手段によってエネルギーを供給する方法だ。

体内の胃酸で発電するデバイス

アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)は、胃酸で発電する小型電池を開発した(図1)。すでに、発電機構や温度センサー、無線通信回路などを搭載する錠剤サイズ(直径約12ミリ、長さ40ミリ)のカプセルを開発している。

胃酸電池の原理は、レモンに亜鉛と銅の小片を差し込み、レモンが持つ酸に電解液の役割を持たせて電流を生み出す、「レモン電池」と同じ仕組みだ。胃酸電池はこの原理を応用して、レモンの代わりに胃酸を使って電流を生み出している。

胃酸電池を搭載したカプセルを豚に飲用させた実験では、無線通信によって2メートル離れた受信機に12秒ごとに体温のデータを送信し、消化管に平均で6日間留まった。デバイスが小腸へ移動すると胃酸が少なくなるため、発電量は胃の約100分の1に低下したが、発電は続いていたことから体内での長期間利用が可能と見ている。

MITでは今後、この仕組みを専用ICで実現し、胃酸電池を搭載したカプセルのサイズを現在の3分の1ほどに小型化し、体温以外の情報も取得できるデバイスの研究を進めていくという。

(図1)MITが開発した胃酸で発電するカプセル(MITのニュースページより引用)

胃酸電池を内蔵した飲む体温計の開発は、日本でも進められている。東北大学が開発した「飲む体温計」は、直径約9ミリ、厚さ7ミリの大きさの樹脂製で、マグネシウムとプラチナの電極を持つ。胃酸が電極に触れると発電し、コンデンサーに充電される(図2)。この充電エネルギーを用いて、腸内温度を定期的に測定し、体外の受信器にデータを送信する。

(図2)東北大学が開発した胃酸電池を内蔵した「飲む体温計」(東北大学のプレスリリースより引用)