ロボットは将来、AIなどによって自律的に動くものになると想像している人も多いだろう。そして、シンギュラリティが起きれば人間の制御が効かなくなり、暴走を始める... しかし、ロボットの進化には、そんな暗い未来しか残されていないわけではない。人間の能力を超えるロボットを意のままに操作できれば、人間が自らの体を拡張して進化することも考えられる。その進化を実現するカギを握るのが、人間の脳とロボットの動きを連動させるブレイン・マシン・インタフェース(BMI)だ。

脳と機械を結ぶBMI

近年、SF映画などでは、ロボットが自律的に行動し、人間が指図しなくても人間の仕事や生活を支援してくれる未来の姿が描かれている。さらにロボット技術が進化した未来では、ロボットが人間に交じって一緒に社会生活を送っている。

一方で、昭和の時代から日本のコミックやアニメーションで描かれてきたロボットには、人間と一体となって動くものも多い。その際には、人間がロボット自身に乗り込んで、まさにロボットと人間が一体化するパターンもあれば、遠隔からロボットを声やリモコンで操作するパターンもあった。これらは、人間が本来持っていない能力をロボットが補完し、人間の能力を拡張するというロボットの姿だ。

前者のように、人間との共生を目指すロボット社会の実現に向けては、AI(人工知能)によるロボット制御の研究が進んでいる。そして、後者のように、人間の能力を拡張するロボット社会の実現に向けては、ブレイン・マシン・インタフェース(BMI)の研究が進んでいる。BMIとは、脳から発せられる電気信号などの情報を利用することで、脳と機械を直接つなぐ技術である。一方通行で脳から機械に信号を送るだけでなく、双方向通信で機械からも脳に情報を送ってやりとりする活用法もある。

BMIの研究によって、人間が考えることで脳がどのような反応を示すのかが解明されれば、その信号を計測して人間の考えた通りに行動させるロボットの実現も可能だろう。

3本目の腕でものをつかむBMI

当初BMIは、手が自由に使えない障がい者などがコンピューターを操作するインタフェースとして、活用しようとする研究が多かった。現在、BMIで積極的に研究されているのは、事故などで手足を失った人に再び四肢を取り戻そうとする、リハビリへの活用だ。失われた腕や足の代わりに付ける義手や義足を、BMIによって自由に使えるようにしようとしている。

しかし、脳でさまざまなものが動かせるようになると、新たな可能性が見えてくる。例えば、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)が取り組んでいるのが、BMIとロボットアームを使って人間の身体能力を拡張する研究だ。考えるだけでロボットアームを操り、「3本目の腕」として機能させる方法を開発した。

通常、BMIによってロボットを操作するには、「右手を動かす」「左手を動かす」といった動作のイメージを頭に思い浮かべ、その脳の活動を計測してロボットの部位を動かす方法が考えられる。例えば、操作者がロボットの右手を動かしたいと思うと、脳の中の運動野という部位の一部が反応する。その反応が計測できたら、ロボットの右手を動かすという仕組みだ。しかし、今回の実験のように、人間が本来持っていない3本目の腕の動作をイメージすることは難しい。また、両腕を使っている最中に、さらに何か別の動作を思い浮かべることも、普段の生活の中ではあまりない。そのため、今回の実験では、手を動かすという動作のイメージを思い浮かべるのではなく、「差し出されたペットボトルをつかむ」という意図を脳から検出する、新しいBMI手法を開発した。

実験では、参加者が両手で板を持ち、その上に置かれたボールを、板に描かれた4つの図形の上を順に回るよう板を動かし続けた。参加者はこの間に差し出されたペットボトルを、ロボットアームでつかまなければならない。その結果、参加者15人のうち8人がうまく操作できたという。

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(図1)BMIによる3本目の腕の実験。人の腕のように見せたアンドロイドの腕を実験参加者の左横に設置し、肩からもう1本腕が出ているようにして、ペットボトルを掴ませた。ロボットアームの配置や見た目も、操作性の向上に寄与していると考えらえるという(ATRのホームページより引用)

ATRの研究では、3本目の腕を操作することで、操作者のマルチタスク能力が上がったという。人間がマルチタスクという能力を発揮するにあたって、脳のどこが反応しているのかまではまだわかっていない。ただ、マルチタスクがこなせるのは、人間の特技のようだ。ATRの研究に開発責任者として関わる大阪大学 共生知能システム研究センター 特任教授の西尾修一氏によれば、「実験によって、猿も頑張れば2つの仕事がこなせることがわかっている。だが、それはあくまでもパターンとして学習しているだけで、人間のようにいろいろな仕事の手順を、並行して考えながらこなしているわけではない」。