未来の社会では、さまざまなロボットが宇宙空間で人間のために働いているかもしれない。あるいは、人類が移り住める新しい星を探して、人間の代わりに宇宙に旅立ってくれるかもしれない。そこには、地球でのロボット活用の課題解決とは、また異なる次元での課題解決が必要になってくるにちがいない。では、現時点で宇宙でのロボット活用には、どのような課題があるのだろうか。

宇宙で活躍するロボットは意外と古い?

2019年7月11日、JAXAが2014年12月に打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ2」は、地球から2億8千万km(2018年8月時点)離れた、長さ900mの小惑星「リュウグウ」の表面に銅塊を衝突させ、人工クレーターを生成するミッションを成功させた。このように、地球よりはるか遠方で成功したミッションの裏には、地球からさまざまな装置を制御する、遠隔操作技術が重要な役割を持っていたと思われる。JAXAでは、はやぶさ2のような無人探査機によるミッションだけでなく、宇宙における有人活動の場でもすでにロボットを活用している。

宇宙で活躍するロボットと聞くと、最新鋭の技術が搭載されたスマートなロボットを思い浮かべるだろう。しかし、現在実際に宇宙で活躍しているロボットは意外と古い。そもそも、宇宙では最新技術を頻繁に投入することが難しい。なぜなら、ロボットをロケットで打ち上げるには、相応の費用と時間が必要になるからだ。したがって、2年や3年ごとに新しいロボットに入れ替えることなど想定されておらず、一旦打ち上げると最低でも10年間くらいは使用できるように設計されたロボットが使われている。

例えば、JAXAが運用する国際宇宙ステーション(ISS)の実験棟「きぼう」では、船外で実験を行うプラットフォーム作業用に、長さ10mのロボットアームが取り付けられている(図1)。このロボットアームは、基本設計の開始が1990年、製作に着手されたのが1995年からで、実際に宇宙に打ち上げられて利用が開始されたのは2008年からだ。もともとの設計寿命が10年間だったのですでに寿命を超えているが、基本設計に時間がかけられているため、これまでにシステムの不具合は一切起きていないという。

(図1)「きぼう」船外システムのロボットアームは長さ約10m、重さは約780kgで6自由度の関節で作業を行う(資料提供JAXA)

地上とは異なるロボット制御の課題

当初、このロボットアームは「きぼう」内にいる宇宙飛行士が、ジョイスティックのような装置を使って宇宙の現場で動かしていた。しかし、今は宇宙飛行士の負担を少しでも減らして人間にしかできない仕事に徹してもらうため、ロボットの制御は地上の管制センターからコマンドを送って遠隔操作している。遠隔操作のための信号は、筑波にあるJAXAの宇宙ステーション総合センターから送信されると太平洋を渡り、アメリカのテキサスやアラバマにある管制センター経由で宇宙に送られる(図2)。そこから、さらに中継衛星を介して「きぼう」に送られるため、地上から「きぼう」の装置までの通信遅延は、使用するバンド帯によって片道3~6秒になる。ちなみに、「はやぶさ2」との通信では、「リュウグウ」が日々地球に近づいている関係で刻々と遅延時間は短くなってきたが、2019年7月23日現在の電波の往復時間は約27分となっている。

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(図2)筑波の宇宙ステーション総合センターと「きぼう」の間は片道で3?6秒の通信遅延がある(資料提供JAXA)

これだけの遅延があると、「きぼう」のロボットアーム制御は簡単ではない。実際の作業ではコマンドを1つずつあるステップまで入力し、それらのコマンドの実行が確認されたら次のステップまでコマンドを入力するという操作を行っている。また、ロボットアームは人間が目視できない環境で動いており、限られたカメラからの映像でしか作業の様子は見られない。そのため、安全を考慮し、映像で確認できている時しか動かさない。通信が途切れている時は、必ずロボットアームが動いていない状態にしなければならない。

ロボットアームのハンドは確実にものを掴み、一旦掴んだものは絶対に離さないことが求められている。一旦ロボットアームから離れると再度ハンドでは掴め直せず、そのミスは大きな事故を起こす可能性がある。「きぼう」は90分に1回地球を1周している。その速度は秒速7.8kmにもなるが、掴み損ねた放出物も高速で地球を周回することになればどんどんスピードが上がっていき、ISSへの衝突で大きな損害を与えかねない。また、780kgあるロボットアームがなにかの影響で暴走すると、「きぼう」の船体を破損させる可能性もある。このように、ものを離さない、暴走させないために、ロボットアームには3つの補償回路が備えられている。