人間がロボットに抱く期待は、大抵がわがままなものだ。たとえば、ロボットには自らの身を犠牲にしてでも、危険から人間を守って欲しい。その分野では、阪神淡路大震災での反省をきっかけに、レスキューロボットが開発されている。レスキューロボットは、二次被害の危険がある現場などで、がれきに埋まった人間を見つけ出したり、救出したりすることを目指している。一方で、災害現場ほど常時危険にさらされることはないが、いざとなると危険に巻き込まれる可能性がある警備の現場でも、本格的なロボットの運用が始まろうとしている。

需要が高まる一方で人手不足が顕著な警備業界

少子高齢化が進む日本の将来は、さまざまな職種において人手不足が心配されている。なかでも、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックに向け、多数の大型商業施設や高層ビルが新設された首都圏では、大会開催後も当分の間は警備員の需要が減ることはなさそうだ。このような傾向は、地方の都市圏においても同様だ。

そもそも、一言で警備といっても警備業法で大きく4つに分類されている。まず、1号と呼ばれる警備では、建物や施設に警備員が常駐して巡回したり、防犯カメラのモニターを監視したり、防災センターの管理業務や建物の入出管理などを行ったりする。道路での交通誘導警備や雑踏警備などは2号警備と呼ばれ、イベントや商業施設、駐車場などで人や車の誘導や整理などを行う。3号警備では、運搬警備業務として美術品運搬や現金輸送車などの警備を行い、4号警備では身辺警備業務、いわゆるボディガードの仕事を任される。

この中でも、商業施設やオフィスビルなどで不審者の侵入を未然に防いだり、火災の発生などを素早く発見したりする1号警備では、24時間365日、継続した警備が必須になる。このため、警備員には長時間労働や昼夜逆転の生活を強いられることもある。こうした労働条件が若年層から敬遠され、現時点では警備員の多くを定年退職者の再雇用に頼っているのが実態だ。

そこで期待されているのが、人間に代わって施設やビルを見回ってくれる警備ロボットだ。ロボットであれば、電源の供給を確保することで24時間365日働き続けてくれる。人間にとっては危険な現場でも、ロボットならば対応できる。

オフィスビルでの活躍が期待されている警備ロボット

三菱地所は、今後2年をめどに警備ロボットを本格導入することを発表している。現在、三菱地所が東京・大手町や丸の内、有楽町で所有するビルでの採用を進めているのが、シークセンスの自律移動型警備ロボット「SQ-2」だ(写真1)。オフィスビルや商業施設における、巡回警備や立哨(一定の場所に立って行う監視)警備をSQ-2に代替させようとしている。

SQ-2は3次元LiDARなどのセンサーを使い、空間認識によって自ら詳細な立体地図を生成する。その地図を元に人間が警備経路を教え込み、障害物などをよけながら自律的に移動。あらかじめ定められたチェックポイントに異常がないかを確認する。

(写真1)大手町パークビルディングでの「SQ-2」稼働の様子。(写真提供:シークセンス)

巡回警備というと、建物内に許可なく侵入した不審者を見つける仕事というイメージが強い。しかし、実際にはそれ以外にも、建物内の設備が正常な状態で運用されているかどうかを目視で確認することも、巡回警備の重要な仕事だ。建物内には、物を置いてはいけない場所や、その場所から勝手に移動させてはいけない物などが結構ある。例えば、防火シャッターや非常口の前に物が置かれていたり、本来設置してあるべき場所に消火器がなかったりすると、火災などが発生した際に被害を拡大させかねない。

SQ-2が担う、毎日決められた場所を見て回るという単調な仕事については、「人間よりもロボットの方が得意かもしれない」とシークセンスCEOの中村壮一郎氏は語る。大きなビルになるほど、物を置いてはいけない場所が増え、歩行距離も長くなる。また、どこが防火シャッターや非常口なのかが分かりにくいので、担当する警備員が覚えるべき項目も複雑になる。しかし、ロボットならば一度教え込ませれば、確実にそこをチェックしてくれる。

また、チェックするポイントが多くなるほど、人間は無意識に変化を見落としてしまうことがある。ロボットならば、センサーで物の有無を確認したり、1箇所ずつ写真を撮りながら正しい状態と比較したりする。なにかいつもと違う状況が見つかった際には、警備センターにいる人間に画像と共に知らせる。巡回警備は機械的な作業なだけに、ロボットの方が信頼性が高いとも言えるのだ。

警備ロボットの仕事には不審者の侵入の発見も含まれるが、現時点でのSQ-2には顔認証などで不審者かどうかを判断する機能は搭載されていない。ただ、この時間帯に人がいるのはおかしいという明確なルールを判断基準にして、不審者を発見したら警備センサーに知らせる。「将来的には機械学習などを使えば、設備の変化や不審者を見つける精度も上がっていくだろう」(中村氏)。

SQ-2は高さが120cmほどで重量は約66kgだが、バッテリーが下にあるので安定感は高い。3次元LiDAR、超音波センサー、魚眼カメラ、サーモセンサーなどを駆使して環境の変化を検出し、異常を発見する。固定カメラでは難しい暗闇も確認でき、死角も極力減らせる。バッテリー駆動時間は作動時は5、6時間くらいだが、急速充電によって30分で半分まで充電が回復するので、ロボット掃除機のように、バッテリーが減ってくると自ら充電器に移動して充電する機能もある(写真2)。

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(写真2)SQ-2は頭部に付けられた3つのレーザセンサーを回転させ、3次元での360度センシングを実現している(左)。充電時にはロボット掃除機のように自ら充電器(右)に戻っていく。