人間の愛情表現の1つであるハグという行為は、お互いの親密さや友情の深さなどを伝えたり、相手に支えや安楽、慰めなどをもたらしたりする手段でもある。人間とロボットが共存する未来の社会では、ロボットに対しても友情や感謝を伝えるためにハグをしたくなるかもしれない。とはいえ、そのロボットが金属で作られた固い体を持っていたら、ハグをためらってしまうだろう。やはり、固いものに抱きしめられるのは危険だ。従来のロボット工学とは異なるアプローチで研究が進んでいる「ソフトロボット」ならば、人間とロボットが安心してハグできるかもしれない。

人間との共存が難しい従来のロボット

一般的に描かれるロボットのイメージとは、頑丈で力持ちといったものだろう。そういった特徴を生かして、ロボットには人間の代わりに危険な場所に行かせたり、人間では絶対に発揮できない大きな力や高速な動作で作業をさせたりする。特に、今後も活躍が期待されている製造業や建築、警備、宇宙開発といった分野で利用されるロボットは、過酷な環境に耐えられるよう頑丈な筐体を持たせようとしている。さらに、ロボットが行う作業は確実性や精度が重視されるため、どのような状況においても同じ動作や力で対応することが求められる。

そのため、ロボットの体はさまざまな金属部品で作られるが、強力な力と固い体を持つことで人間とは隔離された空間での運用が必要になる。一方で、最近はセンサー技術の進化により、ロボットハンドでも卵やワイングラスなどの壊れやすい物も掴めるようになってきた。しかし、固い体を持ち融通のきかない動作しかできないロボットには、柔軟な所作ができない。ロボットは人間が無意識に行う柔らかなでしなやかな動きが苦手なので、柔らかい果物を掴んだり人間の手などをほどよい力加減で握ることはまだ難しい。

このままでは、人間とロボットとの共存や協調など、なかなか実現できそうにない。そこで注目を集めているのが、柔らかでしなやかな体を持つソフトロボットだ。体が柔らかければ人間がぶつかっても痛くないし、関節が柔らかければ人間の力で動きを止められる。

ソフトロボットの用途としては、ディズニー映画の「ベイマックス(Big Hero 6)」のように日常生活の中で活躍する、人間の心と体を癒やすケアロボットや災害時などに人間を安全に救出するレスキューロボットなどの姿が想定されている(図1)。

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(図1)ソフトロボットの役割は人間と共存して生活を支援すること(Science of Soft Robotsのホームページより引用)

表面を柔らかくするだけでは実現できないソフトロボット

さまざまな状況が想定される日常生活に、現在の固くて融通がきかないロボットをそのまま導入するのは危険だ。とはいえ、ソフトロボットの実現は単純ではない。単に体の表面を柔らかい材料で覆ったり、しなやかな動きをソフトウエアで実現するだけではだめだ。現状のロボットハンドの骨格に柔らかい材料を貼り付けても、力の加減を制御しなければ物は掴めない。

人間はドアノブを握った際、指と手のひらが変形して曲面にぴったり沿う。そして、指先に埋めこまれた触覚で、どれくらい密着しているのかを無意識に認識しながら、適度な力加減と握り方の調整でドアノブを左右に回してドアを開けている。また、ロボットに柔らかい物を掴ませたり、物を柔らかく握らせることをソフトウエアで実現させるには、世の中に存在するさまざまな形状や素材に適応できるように、あらかじめ膨大な情報をインプットしておく必要がある。それでも、想定外の事態の発生や環境が持つ不確実性に対応できないことが多い。

このように、ソフトロボットの実現には、体だけでなく動作や思考の柔軟さも必要になってくる。そこで、文部科学省の科研費新学術領域研究の支援を受けた「ソフトロボット学の創成:機電・物質・生体情報の有機的融合」プロジェクトでは、「しなやかな体」「しなやかな動き」「しなやかな知能」という3つの領域からソフトロボットの研究を進めている(図2)。

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(図2)ソフトロボットの研究は「しなやかな体」「しなやかな動き」「しなやかな知能」の3つの領域で進められている(Science of Soft Robotsのホームより引用)