人間は非力だ。しかし、人間は太古の昔から、さまざまな道具を考案して活用することで力を増強させてきた。人間の手だけでは割れない硬いものでも、石を使えば割ることができる。最近の調査では、人類が最初に道具を使ったのは300万年以上前に遡る可能性があると見られている。そして今、人間は装着型ロボットという新たな道具を使って、さまざまな分野でさらに人間が持つ能力を増強させようとしている。

このままロボット技術やAI技術が進化すれば、次々と人間の仕事がロボットに奪われるのではと心配している人も多いだろう。すでに一部の分野では、実際に人間の仕事がロボットやAIに取って代わられている。

ロボットやAIによる自動化によって人間が仕事を奪われるとして、一番心配しているのはブルーカラー労働者ではないだろうか。しかし、米国のシンクタンクによる新たな調査では、ブルーカラーよりも、法律事務所からマーケティング、出版社、プログラミングまで、あらゆる種類のホワイトカラーの仕事の方が、大きく再編される可能性があることが分かったという。

一方で、人間の数十倍から数百倍もの力を発揮するロボットに取って代わられると心配されている力仕事については、人間とロボットの協調が進むことで新たに人間の仕事が増えるかもしれない。人間が装着して、本来持つ力を増強させるパワードスーツなどが開発されているからだ。

人間とロボットが一体化することのメリットは大きい。例えば、ロボットに仕事を覚え込ませることは簡単ではないし、汎用性のある作業に対応できるロボットを作ることも簡単ではない。ならば、考えて行動する部分を人間が担えば、新たにロボットを開発するよりも効率的だろう。また、人間は周りの状況を見て瞬時に判断できるので、何かトラブルが生じた時にはすぐに作業を止めて対応できる。

モーターで人間の能力を増強するパワードスーツ

装着型ロボットとして介護分野などでも期待が集まっているパワードスーツだが、すでに物流や工事現場などで活用が始まっている。

ATOUNは、羽田空港や成田空港などでも使われている腰用のパワードスーツ「ATOUN MODEL Y」に、「腕の補助機能」を搭載したパワードスーツの実証実験を行った。従来の腰の補助に腕の補助機能が加わることにより、作業効果がパワードスーツ非着用時に比べて、最大で37.7%向上するという。

ATOUN MODEL Yは装着することで腰の動きをセンサーが捉え、重量物を持った時にかかる腰部への負担をモーターの力で軽減する。ATOUN MODEL Yは現在、空港における手荷物の取り扱い作業や、倉庫やコンテナから荷物を運び出す搬送作業、建設現場での資材運搬や掘削作業などの分野で活用されている(写真1)。

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(写真1)空港で活用される「ATOUN MODEL Y」。乗客の手荷物を取り扱うソーティング場でのベルトコンベアからコンテナへの積み込み作業、貨物倉庫内での貨物の出し入れ作業などを行う作業員の負担軽減や生産性の向上などを目的に運用されている(ATOUN MODEL Yのホームページより引用)

動力を使わないパワードスーツ

モーターなどの動力を使わないパワードスーツもある。イノフィスが開発した「マッスルスーツ」は、ゴムチューブを筒状のナイロンメッシュで包んで、両端をかしめた構造の人工筋肉が使用されている(図1)。ゴムチューブへの圧縮空気注入に伴う膨張が、ナイロンメッシュにより長さ方向の収縮を伴う強い引っ張り力に変換される。マッスルスーツで使用されている人工筋肉は、通常時の直径が1.5インチ130グラムで、5気圧で最大200重量キログラムメートル(kgf)の引っ張り力を発生させる。

(図1)マッスルスーツに使われている人工筋肉(イノフィスのホームペ ージより引用)

人工筋肉が内蔵されたマッスルスーツの背中フレームは、腿フレーム上部の「回転軸」周りに回転できる構造となっている。人工筋肉の一端は背中フレーム上部に固定され、他端にはワイヤが取り付けられている。このような構造によって、人工筋肉の収縮が腿フレームに固定されたワイヤを引っ張り、背中フレームが回転して上半身を起こす。その力の反力で腿フレームが回転し、腿パッドも上半身を起こす方向に作用する(図2)。

(図2)マッスルスーツの構造。人工筋肉の収縮力と反力などにより、動力無しで重量物の持ち上げ時にかかる腰への負担を軽減させる(イノフィスのホームページより引用)