Pepperたちが働く姿を見て大人も感情移入

Pepperがチラシを差し出した際、相手が受け取ると「ありがとう」と感謝を伝え、受け取らない場合は「悲しい」と言うなど感情を表に出すようにした。これによって、特に3歳から12歳までの子供が興味を持ち、自らチラシを取りに行くようになった。

差し出したチラシを相手が受けとらなかった場合に、レッドが「責任を感じています」と言うと大人も子供も笑ってくれる。白井氏は、無機質だと思っていたロボットが責任を感じるという言葉に、意外性や面白みを感じていると分析している。大人ならロボットが責任など感じていないことはわかっているが、それでも感情を感じ取り、健気と感じる。

Pepperが胸に付けたホルダーから上半身を大きく揺すってチラシを取り出す仕草を見ていると、子供だけでなく大人もPepperが健気に頑張っていると感じ、感情移入するようになったという。また、ホルダーによって胸のディスプレイが隠されているので、チラシを受け取る際はPepperの目を見てアイコンタクトをしているような気になる。

「最初から感情を見せる設定にして設計すると難しい。だが、チラシを配るという行為の中で、それがうまくいくと相手に感謝を伝え、うまくいかないと自ら反省している姿を見ることで自然と感情移入している。言葉だけでなく、なんらかのアクションを取り入れることで、ロボットと意志が通じ合っていると感じることがわかった」(白井氏)。

本来、Pepperは胸部に搭載されたディスプレイを使って、人間とコミュニケーションをとることが想定されたロボットだ。しかし、チラシを配っているPepperの胸にはチラシを入れておくホルダーが取り付けられ、そこから自分の手を使って1枚ずつチラシを取り出している。そして、相手がチラシを受け取ったかどうかも、Pepperの手のひらに付けられたセンサーによって自分で理解できている。そのメカニズムには、ロボット関係者も興味を持ったという(写真2)。

(写真2)Pepperによるチラシ配りのプログラムやセンサーによる制御などは、技術的指導を担当した小澤誠氏が開発した(写真提供:白井宏美氏)

ロボットだけでなく人間にも成長が必要

本来、チラシ配りという仕事は単調だが長時間立ちっぱなしになるなど、人間にとっては辛い仕事で敬遠されがちだ。そもそも、人間がチラシを配ると1時間に数枚くらいしかとってもらえないことも多い。それが、このイベントでは、1時間で平均100枚くらいをPepperが配ってくれた。

白井氏はこうした効果を、「ロボットがチラシを配ることで、娯楽性が生まれた。ロボットによるチラシ配りは、人間の仕事の代替ではなく、一種のアトラクションになり得るかもしれない」と見ている。「他にも、人間がやると単調でつまらない仕事でも、ロボットがやるとアトラクションになりそうな仕事を見つけて、人間にはもっとクリエイティブな仕事に専念してもらいたい」(白井氏)。

白井氏は、ロボットと人間が共生するには、何らかの信頼関係や愛着が必要だと語る。そのためには、人間が成長することも重要だ。例えば、スマートスピーカーでも、うまく会話ができる人とできない人がいる。できない人は訓練をすればいい。

「ロボット工学はロボットを開発する研究だが、私たちはロボットと共生する人間を開発する研究を進めていきたい。ロボットが技術的に追いついていないところは、人間が頑張ってコミュニケーションスキルを向上させれば、人間とロボットが共生する未来の到来も早まるだろう」(白井氏)。