人類の先祖である霊長類が出現したのは、約6500万年前であるといわれている。その後、類人猿と分かれて人類が独自の進化を遂げるのは、数百万年前のことだ。一方で、昆虫の祖先の誕生は数億年前に溯るとみられ、その後独自の進化を遂げることで、地球上で最も多様性に富んだ生物へと成長している。このように、人間よりも遙かに長い進化の過程を持ち、優れた特殊能力を身に付けた昆虫の特徴を、ロボットに取り入れようとする研究が進んでいる。

昆虫に限らず、長い年月をかけて進化した生物は、自然環境に対応したり外敵から身を守ったりするためにさまざまな機能を身に付けてきた。こういった、生物の優れた機能を模倣した工業製品の開発は「バイオミメティクス(生物模倣技術)」と呼ばれ、1950年代から徐々に実用化された製品が登場している。

バイオミメティクスは当初、翼や鱗、体型など生物の外見の模倣から始まり、その後電子顕微鏡の発明によって生物の微細な構造を模倣できるようになった。近年はセンサーの進化などによって、バイオミメティクスの着眼点は目に見えない特殊機能(超音波や赤外線)の解析・活用にまで広がり、さらにはバイオテクノロジーの進化によって、細胞機能にまで模倣の着眼点が広がってきている(表)。

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(表)バイオミメティクスの例(出典:日本ITU協会の資料を元に作成)

昆虫の動きを模倣して進化するロボット

昆虫はさまざまな状況に応じて歩行パターンや歩行速度を即座に調整でき、大きさや形態などが異なっても同じパターンで移動できる。この能力をロボットに応用する研究は以前から進められているが、昆虫独自の身体的特徴である6本足による走行の制御が複雑で、模倣が困難だった。

東京工業大学の小池康晴教授らの研究チームが開発したのは、上層で全体の動き制御し、下層で個別に足を制御する、2階層構造の六脚ロボット制御装置だ(写真1)。この仕組みによって、六脚ロボットの動作や速度、姿勢などの制御が容易になる。

(写真1)六脚ロボットの静止イメージ。左はアリが静止している姿勢を模倣しており、右はゴキブリが静止している姿勢を模倣している(東京工業大学のニュースリリースより引用)

昆虫に限らず多くの動物は、2足歩行の人間と比べて傾斜面や瓦礫の山など不規則面での歩行が得意だ。また、車両型ロボットの場合、いくら最先端のものであっても立ち入ることが難しい場所がある。小池教授らはこの制御装置を人間の脳と連携させ、考えるだけでロボットの動きを制御させることにも期待している。人間が遠隔から直感的に操作できれば、災害時にがれきの中から被災者を発見するロボットを実現できる。

空を飛ぶロボットとしては、鳥が羽ばたく動作や身体の構造などを模倣して、高速で長距離の無着陸飛行を実現する研究がいろいろと進んでいる。一方で、翅(はね)を持つ昆虫を模倣すれば、鳥ほど長距離を移動することはできないが、身体の小ささを生かしてさまざまな場所に入っていけるロボットが実現できそうだ。身体が小さければ、バッテリーを積むことなく、太陽電池などで長時間動作させておくこともできる。

昆虫が小さな身体で力強く、俊敏に飛べる理由の1つが4枚の翅にあると考えられている。2枚で1対になった4枚の翅により、飛行方向や縦揺れ、横揺れ、偏揺れを調整して微妙なコントロールが可能となる。しかし、従来の研究では、外部電源からの供給なしに昆虫サイズのロボットを飛行させるのは、積載能力や重量の関係で困難とされてきた。

ハーバード大学の研究チームは、エネルギー変換のシステムと機械系を極力軽量化することで、約2センチの薄い羽を4枚搭載する小型ドローン「RoboBee-X-Wing」を開発した(写真2)。RoboBee X-wingは、昆虫のように4枚の羽を羽ばたかせて揚力を発生させることで、電力消費を増やさずに揚力が向上できる。

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(写真2)ハーバード大学が開発した太陽電池で飛行する「RoboBee X-wing」(ハーバード大学のホームページより引用)

RoboBee-X-Wingの大きさは直径約8センチ、重さ0.26グラムの機体に60ミリグラムの太陽光発電パネルを搭載し、光を浴びることで飛行に必要な電力を得ている。これによって、理論上は光のあるところなら無限に飛び続けられる。