ロボットに対する人間の要求は、いつもわがままだ。なによりも、ロボットには人間の役に立ってもらいたい。建築や土木の現場では人間の代わりに危険な作業をやって欲しいし、工場では人間が実現できない力や速度で組み立て作業などをやって欲しい。最近では、人手不足を補うためにレストランで料理を作ってくれるロボットや、接客をしてくれるロボットも作られている。人間はさらに、ロボットに究極な要求を突きつける。それは、人間のために食べさせて欲しいということだ。

人間が胃や腸で消化できるロボットは、「可食ロボット」と呼ばれている。すなわち、「食べることが可能な材料(素材)で構成されたロボット」だ。可食ロボットは、現段階で2つのカテゴリーに分類できる。1つは、食品加工工場などで運用されているロボットの一部を可食材料で作ること。もう1つは、全体が可食材料で作られ、そのまま食べられたり、栄養カプセルのように口から入ると食道から胃へと自らの力で移動して消化されたりするものだ。

食品加工工場での活躍に期待される可食ロボット

そもそも、人間が食べることが可能でロボットの部品としても利用できる素材とはどのようなものだろうか。現在、ロボットの機械特性と同程度の弾性率を持つ可食材料として、シリコーンと似た特性を持つゼラチンが注目されている。ゼラチンは動物の皮膚や骨、腱などの結合組織の主成分であるコラーゲンに熱を加えて抽出したもので、食品関連分野では製菓材料やゲル化剤、増粘剤、安定剤として広く利用されている。

電気通信大学助教の新竹純氏は、ゼラチンを使った誘電エラストマーを3Dプリンタで作製し、電気ではなく空気圧によって動くアクチュエータを製作した。可食ロボットの手など可動部分に使われることが考えられるが、実際にシリコーン製の空気式アクチュエータと同等の性能を示しているという。スイス連邦工科大学ローザンヌ校の研究チームが開発した、ゼラチン・グリセロール合成物から作られたアクチュエータも、圧縮空気を注入することで膨張し、構造全体を曲げたり、力が発揮できる(写真1)。論文では、25kPaの空圧によって約170度まで曲がり、0.34Nまでの力を出せるとなっている。

(写真1)スイス連邦工科大学が開発した可食ロボット。膨張すると曲がり、圧力が低下するとまっすぐに伸びる(IEEEのWebサイトより引用)

このような材料を使った可食ロボットは、どのように活用されるのだろうか。例えば食品加工工場に可食ロボットを導入すれば、加工の工程で不可食の異物が混入するリスクが減らせる(写真2)。安価なゼラチンならば、すぐに部品を交換できるので衛生的である。

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(写真2)スイス連邦工科大学が開発した可食ロボットはリンゴ(95.6g)、ゆで卵(47.7g)、オレンジ(104.8g)、レゴレン(25.7g)、ボトルなど、異なるサイズや形状の物体が掴める(IEEEのWebサイトより引用)

自ら移動して非常食になってくれる可食ロボット

では、全体の構造が可食材料で作られたロボットの場合、どのような活用が想定できるのか。きっと普通に食べるだけならば、通常の食品や料理の方がおいしいと思われるので、だれも積極的にロボットを食べたいとは思わないだろう。エンターテイメント的な用途であれば、いろんなキャラクターの可食ロボットをパーティやイベントなどで楽しみながら食べることも考えられる。だが、もっと人間の役に立ってくれる活用法はないものか。

現在もっとも有用な活用法として考えられているのが、可食ロボットを災害時の栄養源や非常食にすることだ。東北大学 准教授の多田隈建二郎氏が研究を進めている可食ロボットは、災害時の栄養補給を目的としている。災害直後にがれきの隙間などで生存する被災者が見つかった場合、救助隊員が被災者を助け出すまでの間、栄養を与えて生きながらえさせる必要がある。その際、栄養注射で被災者にエネルギーを与えようとしても、粉塵やがれきなどの汚れから血管の位置が分かりにくい。また、被災者に直接食物を与えようとしても、被災の状況によっては咀嚼が困難な場合もある。

このようなケースでは、被災者の口から入った「食べられるロボット」が、自ら体内を移動し、最後に消化されれば栄養補給が可能になる。多田隈氏はさらに、羊の腸と高野豆腐で硬さを切り替える機構を開発した。袋状の羊腸に小さく刻んだ高野豆腐を詰めた、ソーセージ型のロボットだ。袋状の羊腸から空気を抜くと、高野豆腐同士が密着して堅く締まる。逆に、空気が入っていれば高野豆腐がバラバラに動くため軟らかくなる。これによって、お煎餅程度の硬さから片栗粉の袋くらいの軟らかさに調整できるという。

素材の硬軟が切り替えられると、把持する対象の形に合わせて変形するクリップが作れる。そのようなクリップがあれば、先に紹介した食品加工工場でもいろいろと活用のアイデアが広がるだろう。災害現場でも、口から栄養液を送り込むために食道を開ける「開口器」として利用できる。意識を失って反射的に食いちぎられても、可食材料ならば心配がない。

他にも、災害や事故などによって、救助隊が到達しにくい場所に閉じ込められた生存者の位置をレスキュー隊に報告した可食ロボットを、生存者に食べてもらうといったアイデアもある。スイス連邦工科大学ローザンヌ校と仏ローザンヌホテルスクールは共同で、災害時などに食料を運ぶ「可食材料を使った輸送用ドローン」を開発中だ。ドローンの機体をビスケットのような可食材料で作れば、全体重量の75%程度を食料にできると見られており、従来型のドローンに比べて輸送できる食料が大幅に増やせる。