これまで、さまざまな視点から人間の代わりに働いてくれるロボットや、人間を守ってくれるロボットを紹介してきた。しかし、今後も人類と未知のウイルスとの戦いが続いていくのならば、ロボットが活用される分野もさらに広がっていくかもしれない。今回は、早急の対応が求められている、医療分野での新しいロボット活用の例を紹介する。

医療の現場では、これまで主に遠隔から手術を行ったり、人間では実現不可能と思われる手法で手術を行ったりするロボットの開発に、最先端の技術が投入されてきた。しかし、実際にはそういった最前線の現場以外にも、医療スタッフの人手不足を補ったり院内感染を防いだりするためにロボットの活用を必要としている現場も多い。

医療スタッフの雑務を担う看護師支援ロボット

アメリカでは看護師が行うタスクのうち、薬や医療器具を運ぶなど看護と直接関わりのない雑務が30%を占めると言われている。そうした雑務によって、病院内を1日あたり12~16キロメートル駆け回ることも珍しくないと指摘されている。

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(写真1)看護師の雑務を担うDeligent RoboticsのMoxi(写真提供:Deligent Robotics)

米Deligent Roboticsが開発した「Moxi」は、このような雑務を看護師の代わりに担ってくれる、看護師支援ロボットだ(写真1)。医療器具やサンプル、布巾などの収集から回収、配達などを行うことで看護師を雑務から解放し、患者と向き合う時間を増やす「人間中心のヘルスケア」実現を支援する。雑務をロボットに任せれば、ウイルス感染者が触ったものに医師や看護師らが触れずにすむので、院内感染のリスクも抑えられる。

一方、このようなロボットを導入しても、それぞれの病院の環境に合わせてタスクをプログラミングしているのでは、実運用までに手間や時間がかかる。ロボットにお願いしたいタスクも、状況に応じて刻々と変化するだろう。また、看護師も多忙であるため、複雑な手順で現場のロボットにタスクを教え込まなければならないようでは、さらに業務の負担を増やしてしまう。

そのため、Moxiには画像や音、衝撃を感知するセンサーなどを活用して、看護師がロボットに手順を示すだけでタスクを学習する機能を持たせている。例えば、病室に薬剤が入った容器を運ぶというタスクを人間が直接Moxiに教えてあげると、Moxiはその動作だけでなく薬剤が入った容器の色や重さをAIで学習し、次からはそのタスクを自動で行えるようになる(写真2)。

(写真2)Moxiは看護師から動作を直接教わることでさまざまなタスクに対応する(写真提供:Deligent Robotics)

工場や倉庫などで利用されるロボットならば、安全性さえしっかり確保されていれば外観などにはあまり気を遣う必要もない。しかし、病院で利用されるロボットの場合、同じ空間に医療スタッフ以外にも病人や高齢者、幼児などの弱者がいる。そのような人たちは、無機質なロボットが動いていることを脅威と感じることもあるだろう。

そこで、看護師支援ロボットには、外観にも気を遣った「ソーシャル・インテリジェンス」の機能が必要になってくる。Moxiには、自分が今どこを見ているのかが他人にも分かるように、顔が付いている。さらに、簡単な会話機能も備わっているので、廊下でスタッフや患者とすれ違った際に挨拶を交わせば、ロボットに親近感を感じるようになるだろう。

Moxiは2018年末から2019年初頭にかけて、米テキサス州のいくつかの病院で試験的に導入され、2020年から新型コロナウイルス感染症の対応に追われているダラスの病院などで活躍している。

病院内を殺菌してくれるロボット

医療機関における環境表面(壁やドアノブなど)の殺菌は、通常清掃スタッフが手作業で行っている。そのため、拭き残しの発生や薬剤耐性菌への効果が薄いことが課題とされている。こういった課題を解決し、医療関係者の院内感染リスクを軽減することを目的に、人間の代わりに殺菌を行ってくれるロボットが開発されている。