デジタル化が実現するまで脳を冷凍保存してくれるサービス

デジタル情報だけで作られたネットワーク上のアバターやクローンでは、生前の人間の意識まではコピーできない。すなわち、コピーされた本人は、死からは逃れられないのだ。では、脳そのものをデジタル化できないのだろうか。

アメリカのベンチャー企業Nectomeは、体の継続的な利用は諦め、脳だけを取り出して長期冷凍保存する技術の開発に取り組んでいる。Nectomeの計画は、将来コンピュータに脳の記憶がアップロード可能になった時点で意識を再生させる。これによって、コンピュータやネットワーク上でデジタル来世として生き続けられるのだ。

しかし、このサービスを受けるには、生存している状態で脳を取り出すことになる。そのため、元の体はもう人間として生き続けることはできない。すなわち、サービスを利用するには「安楽死」を受け入れる必要があるのだ。これによって、米国内でも各方面で倫理上の問題を指摘する意見が上がった。

Netcomeがこの取り組み発表したは2018年には、豚を使った実験での脳の保存に成功しており、すでに25人のサポーターが登録している。彼らは1万ドルでこのサービスを受けられるが、まだ30代や40代であるため、順調に生き続ければ脳の保存が必要になるのは40年から50年先になるという。

Nectome CEOのRobert McIntyre氏は筆者の取材に「現在、人間の脳の保存技術を検証中で、脳を保存できる可能性は高いと思っている」と答えている。また、今後のロードマップについては、「2020年末の実現を目指し、人間の脳を保護するプロトコルの開発に取り組んでいる。脳の保存はすぐに準備可能だが、実際に脳の情報をネットワークにアップロードできるのは50年から90年後になるだろう」(McIntyre氏)。

ちなみに、現在の医療技術で治療が不可能な患者の人体を死後に冷凍保存し、将来、医療技術が進化した時点で蘇生させて治療する「クライオニクス」という技術がある。この方法なら相対的に寿命を延ばせるかもしれないが、老化や事故によって体が物理的に持続不可能になった場合は死を受け入れるしかない。

脳の意識を機械に引き継ぐ「意識のアップロード」

結局のところ、本当の意味で不死を実現するには、冒頭で紹介したSFドラマで描かれているように、寿命が尽きるまで生き続けた後も、そのまま生前の意識をデジタルの世界に継続させなければならない。

人間の体の寿命が尽きても、意識をコンピュータなどの機械に引き継がせる「意識のアップロード(移植)」によって、死を意識することなく生き続ける研究に取り組んでいるのが、東京大学大学院工学系研究科 准教授の渡辺正峰氏だ。

渡辺氏が考える意識のアップロードは、脳から意識を抽出してそれを機械に移し替えるといった単純な方法では実現できない。重要なことは、脳と機械を一体化させることだ(図3)。脳と機械の一体化は、開頭手術をした上で脳と機械を接続し、数カ月から数年かけて行われる。その間、脳から機械には、過去の記憶などの情報だけでなく、その人の意識を作り出しているアルゴリズムの情報なども電気信号として送られる。

(図3)人間の脳と機械を接続して意識を一体化させ、記憶を共有することによって意識をアップロードする。これによって、人間の脳が活動の終わりを迎えても機械の体を使って意識を持ち続ける(資料提供:渡辺正峰氏、イラスト:ヨギ トモコ)
(図3)人間の脳と機械を接続して意識を一体化させ、記憶を共有することによって意識をアップロードする。これによって、人間の脳が活動の終わりを迎えても機械の体を使って意識を持ち続ける(資料提供:渡辺正峰氏、イラスト:ヨギ トモコ)

なぜ脳と機械を一体化させれば、意識が移植できるのだろうか。例えば、人間の脳は左右で分断され、右脳と左脳は脳梁(のうりょう)と呼ばれる神経繊維で結ばれている。渡辺氏によると、意識は右脳と左脳の一部に宿るのではなく、2つの脳で共有されているという。そのため、もし脳梗塞などによって一方の脳の機能が失われても、もう一方の脳が生きていれば意識は継続できる。脳と機械の一体化が完了していれば、「たとえ人間の脳が終わりを迎えても、途切れることなく意識はそのまま機械に引き継がれる」(渡辺氏)。

渡辺氏は現時点でのさまざまな仮説が正しければ、20年後には実際に人間の意識を機械にアップロードできるようになると考えている。その前提条件が、脳と機械を接続するBMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)の小型化や、コンピュータの計算能力向上などだ。ただし、これらの実現やさらなる脳の解析を、自身で進めていくと20年後のアップロード実現は難しい。

そこで、渡辺氏はMinD in a Deviceという会社を設立し、技術顧問として関わることにした。「大学の研究の枠を超えることで研究開発の規模を拡大させ、パートナーも増やして数百人、数千人規模で研究に取り組み、意識のアップロードを実現させたい」(渡辺氏)。