陸上から水上までシームレスに移動できる自動運転モビリティ

地上では車輪で移動し、そのまま入水して水上をスクリュープロペラで移動する水陸両用車が自動運転に対応したら、モビリティとしての活用の幅が広がっていくかもしれない。

水上を移動するモビリティに関しては、日本財団が「無人運航船の実証実験にかかる技術開発共同プログラム」として、無人運航船の実証実験を行う5つのコンソーシアムを支援している。そのコンソーシアムの1つとして、ITbookホールディングスが代表となり、群馬県長野原町、日本水陸両用車協会、エイビット、埼玉工業大学などによる事業「水陸両用無人運転技術の開発 ~八ッ場スマートモビリティ~」において、水陸両用バスの自動運転・運航システム構築に関する共同開発が始まった。長野原町で2020年4月1日より運用が開始された、利根川水系の八ッ場ダムのダム湖を運航する水陸両用バスが対象となる(写真3)。

(写真3)八ッ場ダムで活用されている水陸両用バスはトラックの車体をベースに、タイヤ用のエンジンが前側、スクリュー用のエンジンが後ろ側に積まれている(撮影:元田光一)

水陸両用バスの実験車両兼船舶の開発及びソフトウェアの設計・開発を担当する埼玉工業大学では、以前から自動車の自動運転オープンソース「Autoware」をカスタマイズして、自動運転バスの実用化に向けた研究を行ってきた。そこで蓄積された技術やノウハウを活用し、陸上から水上、水上から陸上へと連続的に切り替えて自動運行する技術を開発する。

水陸両用バスの自動運転化はどこが難しいのか。八ッ場ダムで使われている水陸両用バスは、舗装されたスロープを下りながら陸地から水に入り(入水)、水から陸地に上がる(出水)際には同じスロープを上っていく。埼玉工業大学 大学院工学研究科 教授の渡部大志氏によれば、「入水の場合はそれほど気にすることはないが、出水の場合は左右の車輪が同時に地面に接地できるように進入角度の調整がシビアになる」という。

このように、陸上運行と水上運航をシームレスに自動運転で繋げる場合、車両の位置把握が非常に重要になる。水陸両用バスでは、水面を移動する場合はGNSS(全地球航法衛星システム)を利用すれば位置把握できるが、出水時はより正確に位置情報を把握するためにLiDAR(レーザー光による位置測定)を利用する予定だ(写真4)。ところが、ダムの場合は天候や利水・治水などの影響によって、水面の高さが大きく変わってくるため、LiDARであらかじめ周辺地図を作成しておいても、周囲環境が変わってしまう。そのため、さまざまな水位に応じた周辺地図を作っておく必要がある。また、水面を浮遊する流木にも注意が必要だ。陸上の障害物とちがって、水面や水中にある流木はセンサーでの検出が難しい。コンソーシアムではこういったさまざまな課題を解決しながら、2022年3月までに水陸両用車の自動運転実現を目指す。

(写真4)水上を自動運転する際はGNSSで位置情報を取得する予定(写真提供: 埼玉工業大学)

自動運転水陸両用車の活用で離島の生活利便性が向上

現在、日本で運用されている水陸両用バスはほとんどが観光目的で利用されているが、水陸両用車による自動運転が実用化されれば、新たな物流インフラの構築が期待できる。それは、国内に7000島近くある、離島に荷物を運ぶためのインフラ構築だ。

現状、本土から離島に荷物を運ぶ場合、物流倉庫から出たトラックは港に着いたら一旦荷物を降ろして船に積み替える。荷物は海上を船で移動した後、目的地の港でまた車に積み替えなければならない。水陸両用車があればこうした荷物の積み替えの手間がなくなり、人件費も削減できる。また、水陸両用車をトラックとして活用するには、人間が運転する場合はドライバーには中型以上の自動車運転免許と2級以上の小型船舶免許の取得が必要になる(写真5)。自動運転が可能になればそういった人材を育てる必要もなくなり、「24時間稼働で夜間に海を渡って島に上陸させ、早朝から島で荷物を配送するサービスも可能になる」(ITbookホールディングス 経営企画室 室長 大久保達真氏)。

(写真5)自動車の操作系と船舶の操作系が並んだ水陸両用バスの運転席(撮影:元田光一)

ただし、現在日本で活用されている水陸両用バスは川や湖での利用が前提で、海での航行は考えられていない。海上は川や湖とは比べものにならないくらい波による揺れが大きいので、障害物を発見するセンサーの精度にも大きな影響を与えるだろう。

それよりも大きな課題となるのが、車両の形状だ。日本の水陸両用車は公道を走れるように、交通関連の法律に適応させて箱形の形状になっている。だが、この形状で海を航行すれば大きな波に煽られると簡単に転覆してしまう。こうした課題を解決するために、「例えば、船になるときには翼を広げて安定させるなどの工夫が必要になるだろう」(日本水陸両用車協会 理事長 須知裕曠氏)。