クルマが空を飛んでいる光景は、人類が夢に描いてきた未来都市の象徴ともいえそうだ。今はまだその姿を目にすることはないが、夢を現実にしようとする取り組みは世界のあちらこちらで進められている。日本においても、その実現に一歩近づいた取り組みが公開された。

一言で空飛ぶクルマといっても、思い浮かべるクルマの形は人それぞれだろう。SF映画の世界に出てくる空飛ぶクルマと言えば、現在普通に道路を走っている四輪車がそのまま空中に飛び立つといった形状のものが多い。しかし、現時点で考えられる技術で空飛ぶクルマを実現しようとすると、そのような形状で道路から空中に飛び出すのはまだ難しい。

空飛ぶクルマの形態は飛行機型とヘリコプター型

現時点の技術で近い将来に実現できそうな空飛ぶクルマは、飛び立ち方や形状などによって大きく2つのタイプに分けられる。1つは「STOL(Short Take Off and Landing:短距離離着陸)」と呼ばれる、離陸する際に飛行機のように陸上を滑走してから飛び上がるタイプ。もう1つは「VTOL(Vertical Take Off and Landing:垂直離着陸)」と呼ばれる、離陸する際にはヘリコプターのように滑走路を必要とせず垂直に飛び上がるタイプ。

STOLタイプの空飛ぶクルマの実現に向けて積極的に取り組んでいる企業の1つがスロバキアのAeroMobilで、2014年にプロトモデル「AeroMobil3.0」を完成させテスト飛行に成功した(写真1)。AeroMobilはその後2017年に開催されたモナコのオートショー会場において、市販モデル「AeroMobil4.0」の先行予約を開始。2019年11月に開催されたイベントでは、1年以内に納車を開始すると表明している。

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(写真1)AeroMobilのプロトモデル「AeroMobil 4.0」(AeroMobilのホームページより引用)

AeroMobil4.0は2.0リットル水平対向4気筒ガソリン・ターボエンジンを搭載し、飛行時と道路走行時とで推進方法が異なるハイブリッド方式を採用している。飛行時はガソリン・ターボエンジンで後部についたプロペラを回転させるが、道路走行時はエンジンを使って発電した電気でモーターを回して走行する。全長は6メートル弱、全幅は自動車モードでは2メートル超、飛行モードで翼を広げると8メートル超となる。同時搭乗者数は最大2人、飛行時の最高時速は360キロメートル、1回の給油で最大約600キロメートル飛べるようになっているので、日本では東京から大阪まで無着陸で行けることになる。

市販モデルの価格は120万ユーロ(約1億4700万円)から150万ユーロ(約1億8400万円)となり、既に飛行の許認可を取得している欧州で500台を販売した後、米国や中国に販路を拡大する計画。また、AeroMobilは電力のみを動力源とする4人乗りVTOLのコンセプトモデル「AeroMobil5.0」も発表しており、AeroMobil4.0の出荷後にリリースされる予定である。

日本でもスタートアップが積極的に取り組み

道路の幅が狭い日本では、翼を持ったSTOL タイプではなく、駐車場からでも離陸できるVTOLタイプの空飛ぶクルマとして、「eVTOL(電動垂直離着陸)」が注目されている。ガソリンエンジンではなく電動駆動のモーターを使い、プロペラを回転させて垂直に離陸するモビリティだ。すでに経済産業省と国土交通省が「空の移動革命に向けた官民協議会」を2018年に発足させ、国をあげた実用化への取り組みを積極的に進めている。

2020年6月に公開された資料「空飛ぶクルマの社会実装に向けた論点整理」によると、川崎重工や日本航空、ANAなどといったこれまで航空産業に機体開発やサービス提供で深く関わってきた企業だけでなく、テトラ・アビエーションやSkyDrive(スカイドライブ)といったスタートアップによるeVTOLへの取り組みが興味深い(表1)。

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(表1)「空の移動革命に向けた官民協議会」で発表された企業の取り組み(「第5回官民協議会におけるプレゼンテーション概要」を参考に筆者が作成)

東大発のスタートアップであるテトラ・アビエーションは、現在一人乗りの空飛ぶクルマ「teTra」の開発を行っている。「teTra」は、ボーイングがメインスポンサーを務める個人用飛行装置の国際コンテスト「GoFly」に参画しており、2018年6月に世界95カ国から3,000チームが参加した第1ステージではトップ10入りを果たした。テトラ・アビエーションでは2025年をめどに、誰もがどこででも利用できる空飛ぶクルマの普及を目指している(動画1)。

(動画1)テトラ・アビエーションが公開した福島ロボットテストフィールドでの飛行試験(テトラ・アビエーションのYouTubeより)

新たに「空の移動革命に向けた官民協議会」に参画したエアモビリティは、eVTOLプラットフォーム事業を構築する。目的地を設定すると最適ルートが設定される「Airナビゲーションシステム」、刻々と変化する気象情報(風速、風方向)などを分析して提供する「安全巡行支援システム」、着陸地点が近づいたら機体がそのコードを読み取ることでクラウド管制システムとの交信により着陸の許可をもらう「離発着場誘導システム」などを開発する予定(図)。

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(図)エアモビリティが開発する「離発着場誘導システム」(「第6回 空の移動革命に向けた官民協議会」の資料より抜粋)