目力を持ったロボットヘッド

アーティストの藤堂高行氏は、目と眉毛の動きによってロボットの顔にさまざまな表情を実現する技術を研究している。藤堂氏が興味を持っているのは、どのように人間とアンドロイドロボットが感情的な関係を確立するかだ。

ロボットの外観や動作がより人間らしくなってくると好感度や共感度が上がっていくが、ある時点を超えると突然強い嫌悪感に変わるのではないかと予想されている。そして、人間の外観や動作と見分けがつかなくなると、ふたたび好感度が上がって親近感を覚えるようになる。その境目が「不気味の谷」と呼ばれているが、藤堂氏はその谷から抜け出すために重要な要素が「視線」であると考えている。

藤堂氏が3Dプリンターを使用して作成したのは、性別や人種などが一切区別できないロボットヘッド「SEER(Simulative Emotional Expression Robot:感情表現シミューレーション・ロボット)」だ。SEERは人間の相手を認識すると視線を合わせてアイコンタクトし、頭を傾けたり、目やまぶた、眉毛を動かすことで、相手と対峙する。子供のような顔をしたSEERは、相手の表情を真似することもできる。

藤堂高行氏が3Dプリンターで制作したロボットヘッド(藤堂高行氏のホームページからYouTube動画を引用)

SEERは2つのモードで動作する。1つは、ロボット自身が顔のパーツを動かすことで、さまざまな表情を作る「アイコンタクトモード」。もう1つは、間近で見ている人の顔の動きをトラッキングし、リアルタイムで反映することができる「疑似モード」。

もともと、藤堂氏はロボットヘッドで両目の視線を一点に結び、首を動かしてもじっと見つめ続けるよう制御することで、生き物のような印象を与えることを試みてきた。SEERではそこに眉毛の動きとまぶたの動きの制御を加えることで、さまざまな感情を表現しているように見せることができた。ただし、口元が固定されているので、笑顔を作るのは難しいようだ。

人間とのコミュニケーションを円滑にする子供型アンドロイドロボット

大阪大学大学院 工学研究科 講師の石原尚氏は、人間と触れ合いながら情報を交換する子供型アンドロイドロボット「Affetto」の開発を推進している。

石原氏は、これまでに作られてきた人型ロボットは、人工的に作られた表情に合わせて音声を発して会話させているだけであり、人間とのコミュニケーションには向いていないと考えていた。そこで目を付けたのが、「子供の体」を使った子供型アンドロイドロボットだ。「子供は大人と感情豊かなコミュニケーションができる。子供が持っている表現力とか触れやすさ、反応のよさが周りからの注意を惹きつけやすく、情報を集めやすくする」(石原氏)。

子供型アンドロイドロボットを作るにあたって石原氏が求めたポイントは、「触れあいやすい」「豊かな表現力」「感知力が強い」の3つで、これらのポイントが揃ったロボットを作る鍵は「皮膚」だという。顔の表情をとってもこれまでのロボットの感情表現は記号的で、目を細めて口角を上げるだけで笑顔を作ったりしている。これでは字で「笑」と書かれているのと同じで、表情とは捉えにくい。実際に人間が笑う時は、連続的に変化する皮膚が複雑な動きをして、目や口角以外の部分も微妙に変化している。そこで、石原氏はロボットの顔にも複雑に変化できる皮膚を貼り付け、人間の表情と同じように変化させて感情を表現しようと考えた。

しかし、現在ロボットの皮膚に使われているシリコンゴムは1方向にしか変形しないため、人間の皮膚のように複雑に変形させることが難しい。そこで、子供型アンドロイドロボットの顔の皮膚表面に多数の3次元位置計測(モーションキャプチャ)用マーカーを貼り付け、各内部機構の動きに伴う皮膚表面の動きを精密に計測し、表面の操りやすさと変形の特性を評価した。そして、笑顔の表現に適した内部機構の内、最も操りやすい3つの機構を制御して、無表情から笑顔に至る5パターンの表情の変化を作り分けることに成功した。

子供型アンドロイドロボットの顔(動画提供:石原尚氏)

子供型アンドロイドロボットの首から下の体は現在開発中だが、全身が完成したら実験者の指示通りに動いてくれない子供を被験者にした研究や実験に利用したり、巡回ロボットに活用したりすることも考えられるという。「子供型アンドロイドロボットならば、歩いているだけで周りの人が声をかけてきたり頭を撫でたりするので周囲のいろんな情報が収集できる。その情報を新しいサービスに繋げることもできるだろう」(石原氏)。