人型ロボットと人間が一つ屋根の下で暮らすような時代が来る前に、ロボットには是非身につけてもらいたい感覚がある。それは力加減だ。ロボットが力加減を知らなければ、卵のような柔らかいものを掴むと握りつぶしてしまうかもしれない。そんなロボットならば、握手をすることすら恐怖を感じてしまうだろう。ロボットに力加減を教えるには、力加減の数値化が必要だ。力加減が数値化できれば、複数のロボットで力加減の制御を共有する、新たなロボットインフラも誕生しそうだ。

工場などで働くロボットならば、ロボットハンドのような機構を使って掴むものは、いつも同じ大きさや重さ、固さのものだろう。そうしたロボットに作業をさせる場合は、あらかじめものを掴む力加減をプログラミングしておけばよい。最近では物流倉庫で働くロボットにも、布類やプラスティック、金属などさまざまな素材の商品を掴ませてピッキングや箱詰めなどをさせるようになってきた。だが、その場合でも処理する商品の種類が限られているので、それら複数の商品に適応できる力加減をあらかじめロボットに教えておけば対応できる。

とはいえ、人間はさまざまな経験の中でものの固さを学んでいるので、見ただけで固さを判断するだけでなく、指に触れた瞬間にものの固さを判断する能力を持っている。人間と一緒に暮らすロボットならば、日常の中では、いつ、なにを掴むか分からないので、どんなものにも対応できるように、人間のようにものに触れた瞬間に表面の固さが分かり、力加減が判断できる機能を身につけて欲しい。

光で触覚を検知するロボットの指

人間はものの固さを知るためにはまず指で触れて表面の感触を確かめ、ゆっくりと押してみたりする。その時に指が感じる反作用の力の大きさ(圧力)から、表面の固さを判断する。人型ロボットに固さを判断させるなら、同じように指の感触で確かめさせればよい。

コロンビア大学の研究者は、触覚を備えた新しいタイプのロボットの指を発表した。従来のロボットでは、指に触覚を持たせる場合は、指の表面にタッチセンサーなどを組み込むことが考えられていた。しかし、触覚を感じるタッチセンサーを、小さな指の表面に組み込むことは簡単ではない。人間の場合は、皮膚1平方センチメートルごとに400を超える小さなタッチセンサーがあり、触覚に関する詳細な情報が瞬時に脳に送られる。これと同じことを人工的にやるために、指先のように小さくて湾曲した3次元平面をタッチセンサーでカバーするには、センサーから多数のワイヤーを使って情報を取り出す必要がある。

コロンビア大学の研究者は、「光」を使ってこの課題を解決した。ロボットの指の皮膚の下に透明なシリコンで作られた層を作り、30個以上のLEDで光を当て、その光の強さを同じく30個以上のフォトダイオードで測定する。こうすることで、指がものに触った時に皮膚が変形する様子を、フォトダイオードが受け取るLEDからの光の強さで測定し、指が接触した場所と圧力がわかるという仕組みだ(動画1)。

(動画1)コロンビア大学が研究している光を活用した指の触覚システム(出典:コロンビア大学のYoutube動画)

すべてのLEDからすべてのダイオードに、どれだけの光が入るかを測定すると、接触に関する情報はLEDの数とフォトダイオードの数を掛け合わせた1000近くの信号になるが、光による触覚データはわずか14本のワイヤーでプロセッサーに送られ、機械学習アルゴリズムで処理される。光は湾曲した空間でも跳ね返るため、こうした信号は指先などの複雑な3D形状がカバーできるという。

ロボットに力加減を教えるリアルハプティクス

実際にロボットに柔らかいものを掴ませるには、ものに触った感覚を捉える「触覚」だけでなく、力を感じる感覚「力覚」も重要になる。この2つを合わせた感覚は「力触覚」と呼ばれており、慶應義塾大学ハプティクス研究センター特任教授の大西公平氏はその力触覚を数値化して、「伝達」「遠隔操作」「再現」を可能にする「リアルハプティクス」技術を研究している。

リアルハプティクスの研究テーマの1つである遠隔操作では、手元側と遠隔側の間を有線または無線で結んで通信させ、手元側で行っている動作を遠隔側で再現する。通常の遠隔操作では、手元側の動作をそのまま遠隔側で再現させるだけだが、リアルハプティクスを活用すれば手応えが手元側に伝わってくるので、遠隔側に柔らかいものを掴ませる場合には力加減が調節できる(動画2)。

(動画2)手元側の装置(下側)を操作することで、遠隔側の装置(上側)があたかも相互につながっているかのように動作する。この時、手元側の操作者は輪っかに指を入れて遠隔側の装置についている機械の指を動かすが、強く挟めば機械の指で押されているポテトチップが反発する力が伝わってくる(動画提供:慶應義塾大学ハプティクス研究センター)

この際、対象を操作する操作者の動作は全てデジタルにデータ化して記録できるので、記録されたデータを用いて操作者の行為をあとから忠実に「再現」できる(動画3)。

(動画3)手元側の動作はデジタルデータで記録されるので、ポテトチップを掴む動作も忠実に再現できる(動画提供:慶應義塾大学ハプティクス研究センター)

リアルハプティクスによる動作には柔軟性があるため、ポテトチップを他のものに置き換えても力加減をしながら掴んでくれる(動画4)。

(動画4)記録された動作は柔軟性があるので、掴む対象が変わっても動作を忠実に再現できる(動画提供:慶應義塾大学ハプティクス研究センター)