水中の課題を解決する水中ドローン

水中における課題は、海の中だけにあるわけではない。河川やダムなどにおける、水中インフラのメンテナンス作業にも課題がある。例えば、ダムには3年に1回の定期点検が義務づけられているが、その際には常時水没している水中部分などの不可視部の点検も重要だ。通常、水中部分の点検は潜水士が潜って作業しているが、水が濁っていると目の前10センチの範囲でも視界を確保できないことがある。過去には水門の閉め忘れによって、水中に吸い込まれて潜水士が亡くなる事故も起きた。そういった過酷な環境での作業を強いられるため、潜水士の担い手が不足している。また、水力発電所では水が通る管を点検する際にも、発電を継続するために水を抜かずに水中から点検したいという課題がある。

このように、水の中に潜むさまざまな課題解決で期待されているのが、水中ドローンだ。水中ドローンには10万円くらいで購入できる小型のホビー用もあるが、それらは空撮用のドローンのように撮影用に使われている。水中で作業を行うのは、産業用水中ドローンと呼ばれるものだ。その1つ、FullDepthが開発した産業用水中ドローン「DiveUnit 300」は、幅430×奥行き650×高さ363mm、重さ28kgで最大で4時間稼働する。2、3人の人がいれば運搬、作業ができるなど可動性を考えた設計となっている(写真3)。

(写真3)Fulldepthの産業用水中ドローン「DiveUnit 300」(写真提供:FullDepth)
(写真3)Fulldepthの産業用水中ドローン「DiveUnit 300」(写真提供:FullDepth)

こうした小型サイズの水中ドローンの課題はケーブルにあった。FullDepth 代表取締役社長の伊藤昌平氏によると、「船から電力を供給したり情報を送受信するケーブルが1~2センチくらいの太さだと、水の中ではケーブルが潮流などに引っ張られてドローン本体が浮き上がってくる。なので、従来は小型水中ドローンの制御が難しかった」という。そこで、FullDepthでは電源をドローン本体に積み、情報のやりとりを光ファイバーと抗張力繊維をゴムで覆った1本の細いケーブルで行えるようにした(動画2)。

(動画2)「DiveUnit 300」による水中での作業の様子(動画提供:FullDepth)

水中ドローンが水中ロボットと差異化できる大きな特徴が、操作の簡単さだ。地上の例でいえば、農薬散布などの作業を効率化しようとラジコンヘリを活用するにも、操作を覚えるのが大変だ。それが、誰でも簡単に操作できるドローンの登場によって、小さな農家にも空からの農薬散布が広がっていった。「水中でも同じように、操作が簡単なドローンの登場でさまざまな用途での活用が検討されるようになる」(伊藤氏)。

もちろん、水中ドローンは海中での作業でもいろいろな分野で期待されている。FullDepthは神奈川県藤沢市の新江ノ島水族館と共同で、水中ドローンを用いた相模湾の深海調査を実施した。水深300mまで潜れるDiveUnit 300にロボットアームを搭載し、相模湾での再発見は79年ぶりとなった貴重な深海生物「コトクラゲ」の採取に成功した(写真4)。

(写真4)江の島沖150~300mの海底調査で確認された生物(撮影:元田光一)
(写真4)江の島沖150~300mの海底調査で確認された生物(撮影:元田光一)

伊藤氏が将来実現したいと思っているのが、水中ドローンを自動運転させて海底の3Dマップを作る「海のストリートビュー」だ。海洋開発などを行うには事前の調査が必要だが、個別に調査するとそれだけでも膨大なコストがかかる。陸上と同じように、海底の地形なども簡単にインターネットで調べられるツールができれば、いろんな利用価値が生まれてくるだろう。FullDepthでは東京大学 生産技術研究所と共同で、水中ドローンの自動運転で海のストリートビューを作る研究を進めている(動画3)。

(動画3)水中ドローンが自動運転で海底面2mをキープしながら海面を記録して いる様子(動画提供:FullDepth)

海は広大なので、母船もロボット化して人間は陸上で情報収集できるようにしたいが、それには通信機能の実装が不可欠だ。水中では電波は使えないので、海上の母船まではケーブルで情報を送り、母船からは遅延が少ない低軌道衛星を経由して地上と通信するなど、海のストリートビューの実現に向けては、宇宙活用のパラダイムシフトも重要な役割を担いそうだ。