これまで、ロボットは主に機械工学や電気・電子工学、情報工学などの技術の組み合わせによって研究開発が進められてきた。しかし、従来の研究で利用されてきた技術だけでは、ロボットにもいろいろな限界が見えてきた。そこで注目されているのが、もともと生物が持っている高い運動能力やエネルギー効率、センシング能力などを組み込んだロボットだ。最近では、このように機械と生物の機能が合体した「バイオハイブリッド・ロボット」の研究成果がいろいろと発表されている。

ネズミの細胞を使って泳ぐバイオハイブリッド・ロボット

ハーバード大学は、ネズミの心筋細胞や金の骨格、プラスチック製のヒレ、藻類由来の光活性化タンパクなどを使った、アカエイ型のバイオハイブリッド・ロボットを開発した。チタン製のフレームに4つの層を重ねて作られるロボットでは、まず、伸縮性の高い高分子化合物の層がレーザーでエイの形に切り取られる。次に金製の骨格が取り付けられ、プラスチックの層で覆い、最後にネズミの心筋細胞が植えつけられる。ネズミの心筋細胞をアカエイの体に形成するには、長さ16mmのサイズでも約1週間かかるという。

その後、心筋細胞が活性化すれば、筋肉を収縮させる信号が細胞から細胞へと伝わるようになる。ハーバード大学では、ネズミから採取した心筋細胞をアカエイ型ロボットのヒレに沿ってジグザグに配置し、筋細胞の収縮が体の前から後へ伝わることで、ロボットのヒレがうねる動きを実現した。

アカエイ型ロボットの動きは、光遺伝学の原理を用いて制御される。光遺伝学の原理とは、神経細胞にタンパク質を導入すると、青色の光を外部から照射している間だけ刺激されて電気信号を発するというもの。アカエイ型ロボットでは、藻類由来の遺伝子を筋細胞のたんぱく質に導入することで、LEDライトの青い光で照らされた心筋細胞が刺激された際の収縮によって前進する(動画1)。

(動画1)ハーバード大学が開発したアカエイ型ロボット(ハーバード大学のYoutube動画より引用)

また、アカエイ型ロボットは、金製骨格の弾性エネルギーを使ってヒレを元の位置に戻す。ただ、実際のアカエイにはもう1つ筋肉の層がありヒレを大きく上に動かせるが、アカエイ型ロボットでは筋肉が下方にしか収縮できないので、本物のアカエイのようには動作しないという。

今後、工学的に加工された心筋細胞がどのように収縮するかをモデル化できれば、人工臓器の開発などにも応用できるかもしれない。また、筋肉はモーターなどと比べるとほとんど無音なので、静かに動くロボットの実現に役立つ可能性もあるという。

筋肉組織を利用して柔軟に対応するバイオハイブリッド・ロボット

ロボットに生物の機能を融合させたバイオハイブリッド・ロボットの研究が進んでいる背景には、生物が持つ高いエネルギー効率をロボットに取り入れるという意図もある。

例えば、野生の動物は一度にそれほど大量にエネルギーを摂らなくても、時には1日に数百キロの距離を移動することがあるし、軽く睡眠をとれば翌日にはまた同じことができる。動物と同じスケールで作られたモーターとバッテリーで動くロボットには、まだそこまでの可用性は望めない。そのような生物の能力をロボットにも取り入れるべく研究されているのが、筋肉のような収縮性のあるアクチュエーターと、それを動かす化学エネルギーだ。

米国の陸軍研究所では、バイオ技術で作られた筋肉で動く、バイオハイブリッド・ロボットの研究が進められている(動画2)。すでに限界が見えてきたモーターとバッテリーの組み合わせではなく、モーターの代わりに筋肉を組み込んだアクチュエーターを利用し、バッテリーの代わりに化学エネルギーを利用するのだ。

(動画2)米国陸軍研究所が進める、筋肉組織が詰まったロボットシステムの実験(米国陸軍研究所のYoutube動画より引用)

筋肉組織を活用した生体構造ならば、モーターと比べて高い柔軟性が持てるというメリットも生まれる。舗装された道や多少の荒れ地であれば、現在のモーターで駆動する四足歩行ロボットでも走破できる。だが、走行中に急に路面が変化した場合には、今の四足走行ロボットでは咄嗟に対応することが難しい。

例えば動物ならば、野原を走っていてウサギの穴に足を踏み入れてしまっても、「あ、今ウサギの穴に足をとられたので、すぐに体勢を立て直そう」などと考える前に、体がその変化に対応してそのまま走り続ける。なぜなら、筋肉ならば、「足を踏み外した瞬間に、余分に足を曲げ伸ばしさせる柔軟性」を持っているからだ。柔軟性を持っていないモーターでは、そうした想定外の事象に即座に対応できない。

現在、陸軍研究所が取り組んでいるのは、ロボットの硬いボディに筋組織を取り付け、バネのように筋肉を伸縮させるというものだ。陸上を走行するロボットだけでなく、同様の技術の応用で翼を羽ばたかせて飛行するドローンの開発も検討しているという。