分身ロボットを利用してテレワークで遠隔から接客

テレワークを活用すれば、難病や重度の障害で外出困難になっても就業の可能性を広げることができる。オリィ研究所は、子育てなども含めたさまざまな理由で外出困難な人が分身ロボット「OriHime」を遠隔操作して接客を行う、「分身ロボットカフェ DAWN ver.β常設実験店」を東京・日本橋にオープンした(写真3)。そもそも、日本でテレワークという働き方が推奨されてきた背景には、以前からICT技術を活用することで障害者雇用の枠を広げていきたいといった政府の意図も反映されている。分身ロボットカフェではアバターロボットの活用によって、その雇用の枠を接客業にまで広げた。

(写真3)分身ロボットによってテレワークで接客する「分身ロボットカフェ DAWN ver.β常設実験店」(撮影:元田光一)
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(写真3)分身ロボットによってテレワークで接客する「分身ロボットカフェ DAWN ver.β常設実験店」(撮影:元田光一)

OriHimeは、小学校の頃から病気がちで不登校になったオリィ研究所代表の吉藤健太朗氏が、学校に行けないことで強い孤独に苦しめられながら「自分の身体が複数あれば、友だちと同じように行事に参加できたのに」と悔いたことから生まれたロボットだ。OriHimeにはカメラとマイク、スピーカが付けられ、通信機能が内蔵されている。スマートフォンやタブレットなどを利用して、会話だけでなく首を動かしたり手を振ったりなどの動作で自分の気持ちを表現しながら、ロボットの側にいる人と遠隔からコミュケーションできる。オリィ研究所は、今回の分身ロボットカフェのオープンについて、これまで労働が難しかった人がリモートでロボットを動かして働くカフェを実験的に運営することで、遠く離れた場所から接客を伴う肉体労働が可能になることを実証したいと考えている。

カフェでは、各テーブルを担当するOriHime が、来店者と会話をしながらオーダーを聞く。オーダーされたドリンクなどは、身長120センチの大型の分身ロボット「OriHime-D」が厨房からテーブルに運んでくる(写真4)。

(写真4)オーダーされたドリンクを運ぶ分身ロボット「OriHime-D」(撮影:元田光一)
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(写真4)オーダーされたドリンクを運ぶ分身ロボット「OriHime-D」(撮影:元田光一)

分身ロボットカフェは2018年11月に最初に実験店がオープンし、これまでにも数回1~3週間という短期で営業を重ねてきたが、今回の常設実験店では初めての試みとして、テレワークによる遠隔操作で本格的なコーヒーを煎れる分身ロボット「テレバリスタ OriHime×NEXTAGE」も導入された(動画)。

(動画)テレワークでコーヒーを煎れる「テレバリスタ OriHime×NEXTAGE」(撮影:元田光一)

接客をするOriHimeやドリンクを運ぶOriHime-D、コーヒーを煎れるOriHime×NEXTAGEはすべて、全国各地にいるさまざまな障害をもつパイロットが、スマートフォンやタブレットを使ってテレワークで操作している。コーヒーを煎れるテレバリスタの操作も、パイロットが画面に表示される20個ほどのボタンを使って行うが、位置調整などの細かい動作はロボットがセンサーを使って自律的に行う。

吉藤氏は、これまで人間が作り上げてきた社会は、基本的に体を運ぶことを前提としてデザインされた「身体至上主義」であると語る。オフィスでの仕事を遠隔でこなすテレワークはもともと専門性が高い頭脳労働であり、これまで働いたことがない人にはハードルが高い。「全く社会に出たことがない人が、最初からテレワークで仕事を見つけることは難しい」(吉藤氏)。

そこで、オリィ研究所は、高校生が人生初めての仕事としてアルバイトで接客業を選ぶように、障害を持つ人の初めての仕事としても選択可能な肉体労働を、ロボットを活用したテレワークで提供しようとしている。また、人は高齢で移動困難になっても、「どのように自分らしく生きていけばいいかというロールモデルを持っていない」という。「移動できなくなっても、もう一度働きたくなる環境を作る。分身ロボットの研究によって、そうした人生の選択肢を増やしていくことも目指している」(吉藤氏)。