ロボットには数多くのモーターや、高速で計算できるコンピュータが搭載されている。それらの稼働には電気が必要なので、ロボットは常にコンセントで電源に繋がれている状態か、本体に積まれたバッテリーを定期的に充電しながら動作している。したがって、今実用化されているロボットのほとんどは、コンセントからコードが抜かれたりバッテリーの充電がきれたりするとピタッと止まってしまう。それでは扇風機や電気シェーバーなどと同じで、最先端の機械としては脆弱すぎないだろうか。

57年ぶりに東京で開催されたオリンピックでは、聖火を灯す燃料としてオリンピックで初めて水素が使用された。今後世界がカーボンニュートラルな社会に向かっていくという、人類の意思が込められたメッセージとも言える。一方、ロボットを構成するモーターやコンピュータ、メモリなどの稼働に必要な電気は日本ではほとんどが火力発電で作られており、その電気を使い続ける限りは環境に優しいとは言えないだろう。

そこで注目されているのが、水素を原料として電気を作り出す燃料電池で動くロボットだ。とはいえ、現時点では水素を作り出すには、天然ガスなどの化石燃料を分解する必要があり、製造過程でCO2の排出を伴ってしまう。その課題については、現在各国で開発が進んでいる、再生可能エネルギーで作られた電気を利用して水を電気分解して製造する「グリーン水素」の普及に期待していいだろう。では、実際に燃料電池でロボットを動かすと、どのようなメリットがあるのだろうか。

長期間の稼働に期待がかかる水素で動くロボット

ロボットには屋内だけでなく、さまざまなフィールドでの活躍が想定されている。特に、長期間遠隔で操作しなければならないロボットだったら、頻繁に充電が必要なバッテリーでの運用は難しい。そこで、KDDI総合研究所と大阪府立大学がロボットによる漁業の効率化を目的として開発した水上ドローンは、長期間での使用が可能な水素燃料電池を搭載している。

KDDI総合研究所らが開発した水上ドローンはスマートフォンでの遠隔制御が可能で、スマートフォンの画面から水上ドローンに搭載されたカメラの映像を見てリアルタイムに制御したり、事前にスマートフォン上で作成した航路に従って自律航行する、自律制御などの実証実験が行われている(動画1)。

(動画1)水素燃料電池を搭載して長期間の運用を目指す水上ドローン(KDDI総合研究所が公開しているYoutube動画)

水上ドローンに搭載されているのは飛行ドローン向けの小型水素燃料電池で、最大連続出力800Wの性能を発揮する。また、水素ガスボンベにカーボンFRP容器を採用することで軽量化も図られている。今回搭載されている水素燃料電池と水素ガスボンベのシステム重量は約10kgで、4kWhに相当する電力を貯蔵できるという。リチウムイオンバッテリーの場合、4kWhのシステム重量は40kgなので、水素燃料電池システムは同重量のリチウムイオンバッテリーの4倍以上の電力を貯蔵できることになる。

今後は、漁場から離れた自宅や事務所などの遠隔から水上ドローンを制御して、海洋環境を調査するなどの検証が行われる。

水素よりも扱いやすいメタノールでロボットを動かす

水素を原料とした燃料電池は自動車などでも活用が期待されているが、燃料電池自動車は当初の思惑よりも普及が遅れている。その理由の1つが、水素の取り扱いの複雑さだ。水素は気体なので、タンクに溜めて保管しなければならない。しかも、燃料として効率的に使うには、高圧で圧縮してエネルギー密度を高めなければならないため、圧縮水素を溜めておくタンクや充てんする機器も必要になる。

そこで、注目されているのが、水素の代わりにメタノールを原料にして電気を作り出す燃料電池だ。メタノールは液体なので貯留が簡単で、エネルギー密度も圧縮水素の約6倍、リチウムイオンバッテリーの約10倍と非常に高いと試算されている。しかも、最近では産業技術総合研究所が、低温で二酸化炭素からメタノールを合成できる触媒を開発するなど、カーボンリサイクルにおけるメタノールの活用にも期待されている。

メタノールを原料とした燃料電池で動くロボットについてはまだ研究段階だ。一方で、南カリフォルニア大学の研究チームはメタノールを動力源とし、人工筋肉システムを利用して約2時間ほど動き回れる、体長15ミリ、重さ88ミリグラムの極小ロボット「RoBeetle」を開発した(動画2)。

(動画2)南カリフォルニア大学が開発したメタノールで動く極小ロボット(IEEE SpectrumのYoutube動画より引用)

RoBeetleの人工筋肉は合金ワイヤーでできているが、通常の金属とは反対に熱を加えると縮むという特徴がある。RoBeetleはメタノールが燃焼することによってワイヤーが縮み、燃焼が止まると元に戻るという動作を繰り返して前肢だけで進む。傾斜10度のスロープを登ることができ、自重の最大2.6倍の荷物を積んで運ぶこともできる。また、RoBeetleが積んでいるメタノールは、同じ重さのバッテリーの約10倍ものエネルギーを蓄えているという。