2020年から商用サービスが開始された、5G(第5世代移動通信システム)ネットワーク。まだ、全国で利用できるようになるには時間がかかりそうだが、東京2020オリンピックでは水泳やセーリング、ゴルフといった種目で新しいスポーツ試聴体験が提供されたり、渋谷で5Gエンターテイメントプロジェクトが実施されるなど、さまざまな分野で高速・大容量、高信頼でミリ秒オーダーの低遅延、多数同時接続といった特徴を活用した取り組みが進められている。産業分野においても、5Gの特徴を生かしたロボット活用に期待が集まっているようだ。

工場の通信ネットワークはWi-Fiからローカル5Gに

少子高齢化の影響で人口減少が止まらない日本では、今後もさまざまな産業において深刻な人手不足が続くことが予測される。人手不足の課題なら、ロボットに解決させようと考えてしまうところだが、日本では1960年代頃から工場での導入が始まった産業用ロボットは、人間とは比較にならないほど巨大なパワーを発揮して製造工程の一部を自動化するために作られた機械だ。高度経済成長期には大量生産の工程を支えてきたが、今必要なのは消費者ニーズの多様化や市場の変化に迅速かつフレキシブルに対応する、多品種少量生産の工程に組み込まれるロボットだろう。

そういったロボットには、まず機動性が求められる。工場内の製造ラインを製品に合わせてフレキブルに変更する際には、ロボットのレイアウト変更も必要になるが、従来の有線LANで通信を行う産業用ロボットは、レイアウト変更の都度ケーブルレイアウトを考えなければならない。通信を有線からワイヤレスに切り替えれば、配線コストや設備配置換えで発生するケーブル移設費用、作業時間などが削減できる。

一方、これまで工場内でワイヤレス通信を利用する際には、主にWi-Fiが採用されてきた。だが、Wi-Fiによる通信は狭い範囲に限られるため、大規模工場などの広いエリアや、屋外の通信はカバーしきれない。利用エリアを拡張しようと基地局を追加していくと、電波が干渉して十分なパフォーマンスが得られなくなるといった問題もある。

そこで、Wi-Fiに変わるワイヤレス通信として期待されているのがローカル5Gだ。ローカル5Gは携帯電話事業者による全国向けの通信サービスとは別に、自社の敷地内に専用の5G基地局を設置して構築する通信インフラのこと。ローカル5Gは免許制であることから、他の通信システムや隣接事業者との混信を回避し、安定したネットワークインフラが運用でき通信品質も保たれる。また、ローカル5Gに接続されるデバイスは、IDや暗号鍵などの情報が格納されたSIMカードがなければネットワークに接続できないため、高いセキュリティレベルが保てる(表)。

(表)ローカル5GをWi-Fi6の比較(筆者作成)
(表)ローカル5GをWi-Fi6の比較(筆者作成)

このように、ローカル5Gは通信環境として産業用途に最適であり、5Gが持つ高速で大容量、低遅延といった特徴を生かして、高精密な画像を利用する産業用ロボットの活用などにもいろいろと発展しようとしている。

自律移動型ロボットと高精細カメラで遠隔から作業

現在の産業用ロボットは安全を確保するために柵で囲い、隔離された条件下での作業に限定されていた。今後必要になってくるのは、人間と同じエリアで作業ができる協働ロボットだ。特に、部品や加工品などを運搬するために工場内を自律的に移動できる無人搬送車「AGV(Automatic Guides Vehicle)」には、ワイヤレスの通信が必須になる。

NECは甲府事業所内にローカル5G環境を構築し、ロボットを活用した製造現場のリモート化や自働化に向けた実証実験を行っている。その1つピッキングロボットの遠隔操作では、AGVにロボットアームとカメラを取り付け、遠隔操作によって部品のピッキング作業を行う(写真1)。

(写真1)ローカル5Gを活用したピッキングロボットの遠隔操作の様子(NECのプレスリリースより引用)
(写真1)ローカル5Gを活用したピッキングロボットの遠隔操作の様子(NECのプレスリリースより引用)

本来ピッキング作業は、多種多様な部品が存在するため自動化が難しい。そこで、ピッキング位置までの移動はロボットが自律的に行い、ピッキング作業を人が遠隔で操作することで作業者の負担軽減と自動化を両立している。実験では、5Gで映像伝送しながら1人で2台のロボットを制御し、遠隔から8種の部品のピッキングを実現した。映像表示やロボット操作における遅延の検証では、ストレスなく遠隔操作するための目標遅延時間0.2秒以下を達成した。今後は作業の高速化に加え、多数ロボットとの接続やAGV同士での連携を図って生産ラインへの導入を目指す。

5Gで複数メーカーのロボットを遠隔操作

従来、工場で活用されるアプリケーションは、特定メーカーの特定機種でしか利用できなかった。そこで、産業用機器の「データ通信規格」と「プログラム言語」を1つにすることを目的として開発されたソフトウェア「ORiN(Open Resource interface for the Network)」の普及啓蒙を図るORiN協議会は、NTTドコモやデンソーウェーブ、ヤマハ発動機、カワダロボティクス、オフィスエフエイ・コムと共同で、5Gを活用して複数メーカーの産業用ロボットを統合的に遠隔操作する実証実験を行った。

実験では、ORiNを介してヤマハ発動機製のスカラロボットと、カワダロボティクス製のヒト型ロボットを接続した。現場でロボットが動く様子は、5Gの通信回線によって遠隔のロボット操作者に届けられ、操作者がディスプレイに映る高精細の映像を見ながら、2つのロボットの動作を入力デバイスで指示した(写真2)。

(写真2)複数メーカーのロボットを5Gで遠隔操作する実証実験の様子(ORiN協議会のニュース記事より引用)
(写真2)複数メーカーのロボットを5Gで遠隔操作する実証実験の様子(ORiN協議会のニュース記事より引用)

同実験により、ORiNを介することで異なるメーカーの産業用ロボットであっても統合的に接続できることが確認できたという。また、5Gの高速大容量、低遅延という特徴を生かし、現場の4K映像をリアルタイムにロボット操作者のディスプレイに表示し、ロボットへの入力が遅延なく反映できることを確認した。

今回の実証は、操作者側の機器と遠隔側の機器は5Gルータとクラウドダイレクト(接続端末とクラウド基盤を直結する通信経路)を介して接続されたが、今後は各社に構築されたローカル5Gを介しての実証も必要になるだろう。

農業用ロボットもローカル5Gで遠隔操作

ローカル5Gによってロボット活用を実践しているのは、製造業だけでない。関西ブロードバンドと富士通、鹿児島大学などによって設立された「鹿児島お茶ローカル5Gコンソーシアム」では、農業分野における後継者や担い手不足の課題を、ローカル5Gを構築して農業ロボットなどを活用することで解決する実証を行った。

実証では、ローカル5Gのネットワーク環境を農地エリアに構築し、農業ロボット(自動摘採機)の遠隔制御やドローンによる摘採計画策定のための高速画像転送、および画像解析システムを整備した(写真3)。また、遠隔作業拠点にて鳥獣監視をリモートで行うため、防災用カメラと鳥獣対策監視カメラを準備し、ローカル5Gネットワークを介して監視する仕組みを構築した。

この実証によって、無人状態で自動走行(レベル3相当)する農業ロボットによるローカル5Gを活用した遠隔操作制御の実現や、ドローンを活用した摘採計画策定にかかるデータ収集と分析時間の短縮化が実証されたという。

(写真3)鹿児島お茶ローカル5Gコンソーシアムで使用された農業ロボット(富士通の発表資料より引用)
(写真3)鹿児島お茶ローカル5Gコンソーシアムで使用された農業ロボット(富士通の発表資料より引用)