鉄道網が発達するまで、海や川を利用した水上輸送は人が移動したり荷物を運んだりする上で欠かせない交通インフラだった。水上輸送に代わる輸送インフラとして鉄道や高速道路網、航空輸送が発達した今でも、水上輸送を便利に活用している都市や、船でしか人やものが運べない地域もある。ただし、船はたとえ小型のものでも操縦に特殊な技術が必要なので、専門の教育を受けた人材の確保が必要だ。船の操縦が自動運転になれば、人材確保の課題解決だけでなく新たな観光や物流にも貢献する、未来のモビリティが誕生するかもしれない。

人だけでなく荷物やゴミも運ぶ水上タクシー

MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究チームとAMSインスティテュート(Amsterdam Institute for Advanced Metropolitan Solutions)の研究チームは共同で、アムステルダムの運河を自律的航行する電動式の完全自動運転型ロボットボート「Roboats(ロボート)」の開発に取り組んでいる(動画1)。駅を中心として市内に網の目状に運河が広がっているアムステルダムでは、自動車による混雑を緩和するため、将来的には交通の一部を長さ約100kmの運河網に移そうとする計画がある。MITとAMSの取り組みの目的は、そうした新交通に対応する新しいモビリティの模索だ。

(動画1)アムステルダムの運河で実証中のロボットボート「Roboats」(出典:MIT Senseable City Lab のYoutube 動画より)

2021年11月から始まった実証実験では、4基の電動スラスター(動力装置)を搭載した長さ約4メートルの「Roboats」が、最大定員5人を乗せて最高時速6kmで水上を航行している。充電はドックに収まっている間にワイヤレスで行われ、バッテリーのサイズによって1回の充電で12時間または24時間使用できるという。用途としては、人の輸送だけでなく廃棄物の回収や商品の配送など、人間が操縦するボートで行っているさまざまな作業に利用することが考えられている。

水上での自律航行では、LiDARと360度の視界を可能にする複数のカメラを使用して物体への衝突を避けながら、カーナビと同じようにGPSを利用して現在地から目的地までのルートを検索。研究チームでは、セルフステアリング技術が完成して、どんな状況にも対応できるようになるまでには数年かかると見ている。

一方で、路面と違って水面は天気や風、潮流、潮の満ち引きなど自然環境による変化が大きいため、自動車のように自律自動運転ですべてのボートを運航させることは難しい。研究チームとしても、将来的にも1人のオペレーターが複数の「Roboats」を監視するような運航体制が望ましいと考えているようだ。

日本の都市問題解決に期待する都市型自動運転船

四方を海に囲まれた日本の都市も、大都市は川辺や海辺を中心に形成されてきた。特に近年、大都市臨海部は都市の過密化によって、交通や物流、環境、防災などの課題が複雑に絡み合う。それらの課題に対しても、人やものの移動を支える上で、都市部での水域の活用が重要な糸口になると考えられている。

竹中工務店や東京海洋大学、IHI、炎重工、水辺総研、新木場海床プロジェクト、ウォーター・スマート・レジリエンス研究協会による海床ロボットコンソーシアムでは、海や運河・河川並びに湖沼などの水面に浮かべた3メートル四方の床が自動で動き離着岸する、船舶免許不要の都市型自動運転船「海床(うみどこ)ロボット」の実証実験を2021年12月15日に大阪城(東外堀)において実施した(写真1)。

(写真1)海床ロボットコンソーシアムが大阪城公園で行った実証実験の様子(出典:炎重工のプレスリリースより引用)
(写真1)海床ロボットコンソーシアムが大阪城公園で行った実証実験の様子(出典:炎重工のプレスリリースより引用)

「海床ロボット」は、2025年の大阪・関西万博の会場予定地である夢洲での実証実験の提案公募に「都市型自動運転船による都市の水辺のイノベーション実証実験」として採択されている。今回の実証実験では、大阪城公園の東外堀を夢洲内の水域に見立てて、「タブレットのインタフェースによる水上自動走行の操作」「位置制御による桟橋への自動離着岸」「デジタルファブリケーションを活用した、用途に応じた船の上屋の変更が可能な仕組み」などについて検証した(写真2)。

(写真2)海床ロボットによる自動離着岸の検証(出典:炎重工のプレスリリースより引用)
(写真2)海床ロボットによる自動離着岸の検証(出典:炎重工のプレスリリースより引用)

2022年以降の実証では、「運搬ドローン連動機能」「複数ロボットの群管理」の検証を目指し、運搬や環境、エンターテイメント、防災など用途に合わせた開発に取り組むことを予定している。