離島への物流用途などさまざまな可能性を持つ水陸両用モビリティ

日本における少子高齢化の影響は、バスやタクシーなどの公共交通から物流を担うトラックまで、さまざまな陸上輸送の分野でドライバー不足を深刻化させている。海上輸送においても同様に、内航海運などの船員の高齢化が大きな課題となっている。そのような課題解決にも、水上輸送を無人化する自動運転技術が注目されている。さらに、水上だけでなく陸上も自動運転でシームレスに移動できる水陸両用のモビリティが実現すれば、観光から物流などさまざまな分野で用途が広がりそうだ。

2025年までに無人運航船を本格的に実用化し、2040年までに内航船の50%を無人運航船にすることを目指す日本財団のプロジェクト「MEGURI2040」は、活動の一環として2022年3月14日に水陸両用バスの自動運転・運航の実証実験を行った。今回の実証実験は、以前このコラムで紹介したITbookホールディングスを代表とし、埼玉工業大学や日本水陸両用車協会、エイビット、群馬県長野原町から構成されたコンソーシアムのプロジェクト「水陸両用無人運転技術の開発~八ッ場スマートモビリティ~」の取り組みを具体化させたもの。

実証実験では八ッ場あがつま湖において、乗客を乗せた水陸両用バス「八ッ場にゃがてん号」(全長11.83m、総重量11トン)が陸上から入水し、約2km、約30分の無人運航を行った。プロジェクトには船舶の自動運航関係者が参加しておらず、ICTや5Gなどの無線通信技術を持つ企業や自動運転技術の専門家によって、自動車の自動運転技術が応用されている(図1)。

(図1)八ッ場あがつま湖で運航された水陸両用バス「八ッ場にゃがてん号」で活用された自動運転技術(資料提供:埼玉工業大学)
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(図1)八ッ場あがつま湖で運航された水陸両用バス「八ッ場にゃがてん号」で活用された自動運転技術(資料提供:埼玉工業大学)

水上および入出水における経路誘導のための位置推定には、GNSSとジャイロを利用。自動車向け自動運転ソフトウェア「Autoware」のモデル予測制御に船舶モデルを導入し、陸上と水上の双方で高精度な経路誘導を実現した。また、障害物の自動検知と回避には、LiDAR、カメラ、ソナーを搭載し、Autoware の深層学習アルゴリズムなどを応用して実現している(図2)。さらに、車用と船用の制御装置を同時制御することで、車両と船舶の自動切り替えをスムーズに行えるシステムも独自に開発した。

(図2)「八ッ場にゃがてん号」の運航状況を確認するディスプレイ画面(資料提供:日本財団)
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(図2)「八ッ場にゃがてん号」の運航状況を確認するディスプレイ画面(資料提供:日本財団)

今回の実験の課題は入水と出水、水上での障害物の回避、そしてローカル5GやLTEを使った遠隔操作の可能性についての検証だ(動画2、3、4)。その中でも、特に誘導精度の高さが求められたのが出水だった。埼玉工業大学 工学部 教授 渡部大志氏によると、「船は浅瀬を低速でまっすぐ運航させることが難しく、さらに舵を切ってから方向を変えるまでにタイムラグがある」という。そのため、決められた出水路に正確に誘導できるようになるまでには大きな苦労があった。

(動画2)入水では、できるだけ早くタイヤが地面から離れるように時速30kmまで加速する(動画撮影編集:元田光一)
(動画3)出水して前輪と後輪が地面に乗ると、自動的に船のエンジンが切れて自動車のエンジンが作動を開始し、自動車の自動運転に移行する(動画撮影編集:元田光一)
(動画4)水上に障害物(小舟)を見つけると自動的に舵を切って回避行動をとり、回避後はもとの航路に戻っていく(動画撮影編集:元田光一)

水陸両用のモビリティは、国内の離島へ荷物を運ぶ際に陸上と海上をシームレスに移動できるという、物流の効率化にも期待されている。「そうした可能性にも向けて、今回の実証実験では技術的にやるべき課題はすべてこなせた。今後の課題としては、モビリティの量産に向けた信頼性の向上などが必要になってくるだろう」(渡部氏)。