人間が消化可能な材料で作られる「可食ロボット」が注目を浴びている。その用途としては、例えばロボットでつかむ部分にゼラチンを使うことで、食品加工工場で不可食の異物が混入するリスクを減らせるなど、さまざまに広がりがあるため期待が集まっている。その用途として考えられる1つが、災害時に自ら体内を移動して非常食になってくれる可食ロボットだ。こうした可能性にいち早く目を付けて研究を続けている、東北大学 大学院情報科学研究科 准教授の多田隈建二郎氏(写真1)に、可食ロボットの現状と将来性などについて話を伺った。

壊れることで役立つロボットの研究

多田隈氏が取り組んでいるのは、災害時に被災者が口にすることで栄養源や非常食になる可食ロボットだ。例えば、災害直後にがれきの隙間などで生存する被災者が見つかった場合、救助隊員が被災者を助け出すまでの間、栄養を与えて生きながらえさせる必要がある。その際、栄養注射で被災者にエネルギーを与えようとしても、粉塵やがれきなどの汚れから血管の位置が分かりにくい。また、被災者に直接食物を与えようとしても、被災の状況によっては咀嚼が困難な場合もある。このようなケースでは、がれきの隙間にいる被災者の口から入った「食べられるロボット」が、自ら体内を移動し、最後に消化されれば栄養補給が可能になる。

(写真1)東北大学 大学院情報科学研究科 応用情報科学専攻 准教授の多田隈建二郎氏(撮影:元田光一)
(写真1)東北大学 大学院情報科学研究科 応用情報科学専攻 准教授の多田隈建二郎氏(撮影:元田光一)

なぜ多田隈氏は、このようなロボットの研究に関わるようになったのだろうか。多田隈氏が東北大学で取り組んでいるテーマは、「次世代ロボット機構の研究」だ。その研究分野の1つに「ソフトロボット」がある。これまでロボットは主に金属で作られてきたため、人間と一緒に仕事をするには危険が伴う。そこで、ロボットの表面などに柔らかい素材を使うことで危険を取り除こうとしているのが、世界中で開発が進んでいるソフトロボットだ。

ソフトロボットで使われる素材としては基本的にゴム材が使われることが多いが、それだとどうしても似たりよったりのロボットになる。そして、柔らかいものは壊れやすい。通常は柔らかくても壊れにくい素材を使おうとするし、多田隈氏は刃物が接触しても破けない柔軟ハンド機構の研究にも取り組んできた。一方で、多田隈氏が選択したもう1つの切り口は、壊れたとしてもなにも問題がない材料を使用することだ。多田隈氏は、素材そのものを開発する、新しいロボット作りに挑戦することにした。むしろ、壊れることで役に立つ素材の開発だ。「壊れることで役立つということを広い意味で捉えると、分解されるとか消化されるという方向も考えられる。それならば、人が食べても大丈夫な食材を使ったロボットもあるのではないかと思った」(多田隈氏)。

一方で、多田隈氏が関わる「次世代ロボット機構の研究」には、災害時にさまざまな場所に入っていけるレスキューロボットの開発もある。そうした背景もあり、2016年の春頃には災害時にがれきの中から人を探し出して口元まで近寄っていくロボットに搭載し、さまざまな可食素材によって口から入っていって自ら胃まで移動して消化されるロボットの研究を始めることになったという。

アクチュエータからバネまでさまざまな部品を食材で製作

これまで、多田隈氏は可食ロボットのためにさまざまな材料を使って研究を進めている(写真2)。可食材料を使ったロボットは、どのようにして体内を移動していくのだろうか。そのようなロボットを実現する基礎研究の1つが「可食アクチュエータ(消化可能な柔軟駆動体)」の開発だ。

(写真2)可食ロボットに使用する材料は高野豆腐からかんぴょう、チョコレートまで多岐に渡る(撮影:元田光一)
(写真2)可食ロボットに使用する材料は高野豆腐からかんぴょう、チョコレートまで多岐に渡る(撮影:元田光一)

アクチュエータとは、通常は電気や油圧、空気圧などによって回転させたり屈曲させたりするデバイスだが、多田隈氏らの研究チームは可食性素材としてゼラチンを使用したアクチュエータを作った。そして、空気によって屈曲したり膨張・収縮を繰り返したりするなど、さまざまな動きをする可食アクチュエータを組み合わせることで、食道内を移動して栄養剤を届けるロボットの研究を進めている(図1)。

(図1)体内移動型ロボットのイメージ。口の中に挿入されると緑色の足の部分が、食道の壁を蹴りながら奥へと進んでいく。(資料提供:東北大学)
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(図1)体内移動型ロボットのイメージ。口の中に挿入されると緑色の足の部分が、食道の壁を蹴りながら奥へと進んでいく。(資料提供:東北大学)

意識を失って反射的に食いちぎられて口の中に残ったり誤飲したりしても、時間が経てば溶けてしまうので心配がない。また、各消化器官の入り口にはくびれた部分があるが、そこを乗り越える際に本体が広がってこじ開けるようなメカニズムの搭載も想定している。