言葉を発しないロボットでも高齢者とのコミュニケーション支援には有効

言葉を発しないロボットの活用例もある。大和ハウスライフサポートは自社が運営している老人ホームで、産業技術総合研究所が開発したアザラシ型メンタルロボットである「パロ」を導入した(写真2)。

(写真2)アニマルセラピーと同様の効果を与えることを目的に作られたパロ
センサーやAIによって人間の呼びかけに反応し、抱きかかえると喜んだりする。(知能システムのホームページより引用)

最初はどのように扱えばいいのかわからなかった老人ホームの高齢者も、慣れてくるとパロを置いたリハビリ室に頻繁に会いに来るようになったという。加えて、

・失語症になって表情がこわばってしまった高齢者が、パロと触れ合うことで表情が豊かになってきた
・認知症が強く、徘徊することが多かった高齢者がパロにはまり、徘徊の頻度が少なくなってきた

といった効果が見られた(写真3)。言葉を発しないロボットでも、その機能や性能をうまく引き出せる人が現場にいれば「高齢者が自分の役割を見つけたり、他人から認められたいという承認欲求が満たされ、高齢者同士での会話も弾むようになる」(大和ハウスライフサポート 企画部 部長の吉野 潮氏)。

(写真3)パロをペットのようにかわいがる高齢者も
櫛で毛づくろいをすることが日課になった高齢者もいた。(写真提供:大和ハウスライフサポート)

コミュニケーションロボットで障害を持つ人の社会参加を支援

「OriHime」を開発・販売するオリィ研究所は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)など、難病患者のコミュニケーション支援に力を入れている。ALSは、各部位の筋肉が徐々にやせて、力がなくなっていく難病。進行するとベッドに横たわったまま自分では全く体を動かせなくなる。首も動かせないため、病室の中を見渡すことさえできなくなる。さらに病状が進むと、呼吸器の装着によって発話不能になってしまう。

そこでオリィ研究所では、患者が唯一自らの意志で動かすことができる眼球の動きをセンサーで読み取り、それを言葉に変換して発話できる仕組みをOriHimeに持たせた。従来は介助者が眼球の動きを読み取り、文字盤を使って患者の意思を伝えていたが、OriHimeがあれば、患者は介助者の手を借りず自ら他者とコミュニケーションをとれる。さらに、眼球によるコントロールでOriHimeの首を動かすこともできる。OriHimeのカメラで撮影した映像を見ることで、ベッドの周りを見回せるわけだ。

また、コミュニケーションロボットは、病気や事故によってコミュニケーションに関する障害を背負ってしまった人の社会参加にも役立つ。オリィ研究所では、発話はできるが四肢が動かせない社員が、病室のベッドの上から社内に置いてあるOriHimeを操作し、ロボット開発に関わったり広報担当者としての就労を実現している(写真4)

(写真4)オリィ研究所の代表秘書兼広報担当者である番田雄太氏
同氏は幼少時の交通事故で肢体不自由となり、寝たきりの生活を送る。ベッドの上から顎を使ってパソコンを操作し、OriHimeを分身にして就労している。(写真提供:オリィ研究所)

介護現場などにおけるコミュニケーションロボットの導入については、まだまだいろいろな課題がある。ロボットを導入した施設からの悩みとしてよく耳にするのが、「実証実験を見るとうまくいっているのに、実際の介護の現場では同じような成果が得られない」というコメントだ。

原因は、実証実験のようにきちんとした計画を立てずに導入してしまう点。なんとなくよさそうだからという感覚でロボットを導入するケースが多い。導入前の目標設定だけでなく、導入後のマネジメント、メンテナンスの体制も整えておかないと、期待した効果を得られない事態に陥りかねない。

もちろん、ロボット開発者にとっての課題も残されている。一つは、低価格化を進めること。もう一つは機能面。具体的には、ロボットの声を高齢者にきちんと聞き取れるものにすること、逆に高齢者の声をきちんと聞き取るかといった点である。