ロボットの可能性は無限だ。人間では不可能な速さと正確さで力仕事を続けるロボットもあれば、地球から3億kmも離れた小惑星にたどり着き、サンプルを持って帰ってくるロボットもある。一方で、人間の注文に応じて料理を作ってくれたり、人々に癒しを与えてくれたりするロボットもいる。そんな高レベルな仕事はこなせるのに、足を使って移動するという、人間や動物が当たり前のように行う基本動作については不得意なようだ。近年では生物の特徴を積極的に取り入れたロボットが、新たな進化へのブレークスルーをもたらすと期待されている。

移動に関する課題解決が進化の鍵に

私たちが目にしているロボットのほとんどは、工業用、家庭用問わずモーターを使って車輪を回転させて移動している。陸上だけでなく、空を飛ぶドローンや水中を探索するロボットも、モーターでプロペラ(スクリュー)を回転させながら移動している。

車輪やプロペラを使った移動は、ある用途では効率的だ。屋内や平地ならば、車輪を大きくすれば多少の段差があっても安定に高速移動できる。空や水中を移動するドローンも、風や水流の影響が少なければ滞りなく作業をこなし、決められた場所に戻ってくるだろう。現時点で活用されているロボットの用途ならば、それで問題ないかもしれない。とはいえ、今後もロボットにはさまざまなシーンで活躍して欲しい。

例えば、生物には猫のように、足だけを使って木に上れる動物も数多く存在するし、山羊などは90度近い断崖絶壁でも4本の足で上り下りしている。2本足で移動する人間だって、腰の高さまでの段差や1mくらいの溝ならば、飛び越えるなどして進んでいける。効率よく高速で移動するには回転する車輪やプロペラが欠かせないが、ロボットがさらなる進化を遂げるには、移動に関するさまざまな課題を解決すべきだろう。

このように、ロボットを進化させるために、生物が持つ優れた機能や能力、構造を開発や設計に積極的に取り入れて性能向上を図ろうとする研究は「生物規範型ロボティクス(バイオ・インスパイアード・ロボティクス)」と呼ばれ、以前紹介した「生物模倣技術(バイオミメティクス)」の研究にも関わりを持っている(表)。

(表)バイオミメティクスの例(出典:日本ITU協会の資料を元に作成)
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(表)バイオミメティクスの例(出典:日本ITU協会の資料を元に作成)

理学的なアプローチから生物のメカニズム解明に取り組む

足を使って移動するロボットの開発は、これまでにもいろいろと進められてきたが、そこには複雑な制御プログラムが必要とされる。最先端のコンピューターを搭載し、その計算パワーに頼りながらモーターを高速・高精度で動かすことで制御されている現在のロボットは、生物とは全く異なる方向に進化してきた。

近年の計算パワーの飛躍的な向上によって、ボストン・ダイナミクスが開発した2足歩行ロボット「ATLAS」のようにバク宙やパルクールまで可能なロボットも登場したが、これらのロボットもプログラムによって制御されているため、実世界の環境下では優れた性能が達成できていないようだ。

一方で生物は、高度な中枢神経系を持たない種であっても、実世界でのさまざまな環境下で、驚くほどしなやかかつタフな振る舞いを見せる。こうした振る舞いが可能なメカニズムの本質はまだ解明されていないが、その解明について、工学的なアプローチだけでなく理学的な視点からのアプローチも加えて研究を進めているのが、東北大学 電気通信研究所 教授の石黒章夫氏だ(写真1)。

(写真1)理学的な視点から生物規範型ロボティクスの研究に取り組む東北大学 電気通信研究所 教授の石黒章夫氏(撮影:元田光一)
(写真1)理学的な視点から生物規範型ロボティクスの研究に取り組む東北大学 電気通信研究所 教授の石黒章夫氏(撮影:元田光一)