ロボットが動き続けるにはエネルギーが必要だ。現状のロボットはほとんどが電気エネルギーを必要とするため、定期的に充電しなければならない。一方で、生物の特徴を持つバイオハイブリッドロボットの場合、細胞を維持するために栄養分が必要になるが、それは電気エネルギーで作ることは難しい。いずれは、生き物のように栄養分を摂取しながら動き続けるロボットが登場するかもしれない。

さまざまな生物的機能を搭載したバイオハイブリッドロボット

これまで、ロボットは主に機械工学や電気・電子工学、情報工学などの技術の組み合わせによって研究開発が進められてきた。しかし、従来からの技術だけでは、ロボットにもいろいろと限界が見えてきた。そこで注目されているのが、生物が持っている高い運動能力やエネルギー効率、センシング能力などを組み込んだロボットだ。最近では、このように機械と生物の機能が合体した「バイオハイブリッド・ロボット」の研究成果がいろいろと発表されている。

以前ここでも、ハーバード大学が開発したネズミの心筋細胞や藻類由来の光活性化タンパクなどを使って泳ぐアカエイ型ロボット(写真1)や、米国の陸軍研究所が研究を進めるバイオ技術で作られた筋肉で動くロボット、そして、イスラエルのテルアビブ大学が開発したバッタ(イナゴ)の鼓膜を統合した聴覚センサーを持つロボットなどをバイオハイブリッドロボットとして紹介した。

(写真1)ハーバード大学が開発したアカエイ型ロボット(左)(ハーバード大学のYoutube動画より引用)
(写真1)ハーバード大学が開発したアカエイ型ロボット(左)(ハーバード大学のYoutube動画より引用)

これらのロボットがバイオ技術を活用する理由の1つは、生物のシステムは、電子システムに比べて無視できるほどのわずかなエネルギーしか消費しないことだ。他にも、臭いのセンシングなどを行わせようとすると、現状では分子レベルで検知できるセンサーは生物のシステムを活用した方が感度が高いものが作れる。

バイオ技術で生物由来の機能を持たせた指型ロボット

このように、さまざまな方法で生物のシステムを活用するバイオハイブリッドロボットの研究が進められているが、東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授の竹内昌治氏(写真2)もバイオハイブリッドロボット研究の先駆者の一人だ。これまでに、培養した筋肉で駆動する指型ロボットや昆虫の嗅覚を直接利用したバイオハイブリッドセンサーなど、数々の研究を進めてきた。今回、竹内氏が進めているのは、ロボットが人と協働作業を行ったり将来人型ロボットが家庭で活躍するようになった時でも、安全にロボットと共存できるようにする技術だ。

(写真2)自ら開発した培養肉を持つ東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授の竹内昌治氏(写真提供:東京大学)
(写真2)自ら開発した培養肉を持つ東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授の竹内昌治氏(写真提供:東京大学)

なぜバイオハイブリッドロボットの研究が重要なのか。その理由について、竹内氏は「ロボットの容姿が人間に近づいていく中、外観をシリコンゴムで覆う方法は一般的であるが、経年劣化や不気味の谷の課題などが指摘されている。また、シリコンゴムだと生物特有の機能を出すのは難しい」と説明する。生物は自己修復機能や保湿、排熱性能、高感度センシング能などのユニークな機能を持っているが、そういった生体の皮膚と同様の外観と機能を実現するには、生物そのものの皮膚を使うことが必要であると考え、生体の皮膚を培養してロボットの表面を覆う技術を作った。

竹内氏は「生きた皮膚で覆われたロボット」の研究の第一歩として、人の皮膚細胞から作製される「培養皮膚」を利用し、細胞由来の生きた皮膚を持つ指型のロボットを開発した(動画)。「培養皮膚とは、皮膚の研究や化粧品・医薬品の試験モデル、重度のやけどや傷への移植素材として用いられている、人やその他動物の皮膚細胞を体外で増殖・培養して作製された皮膚組織のこと。培養皮膚は生体内の皮膚と同じように、真皮細胞と表皮細胞という2つの細胞の層から構成されている」(竹内氏)。

(動画1)培養皮膚に被覆された指型ロボットの関節運動(動画提供:東京大学)

「生きた皮膚で覆われた指型ロボット」の作り方は、まず3つの関節を持つ指型のロボットの骨格を3Dプリンターで作製。その骨格を細い筒の中に入れ、コラーゲンと細胞を注入して指全体を覆う。その状態で培養すると、コラーゲンが指の形に合わせてゲル状になって縮まり、表面をシームレスに覆う真皮組織ができる。真皮組織の培養が終わったら、表面全体に表皮細胞をまいて培養を進めることで表皮層が形成され、培養皮膚組織が作製される(図)。竹内氏によると、真皮細胞の培養で3日、表皮細胞の培養は14日間くらい必要になるという。「この方法によって、気体と液体の境界で存在する、表皮のバリア層を作り込める。実際の人間の皮膚にはもっと複雑な組織が入っているが、この真皮と表皮からなる層が1番シンプルな皮膚の構造体となる」(竹内氏)。

(図)培養皮膚の形成では、3Dプリンターで作られた3つの関節を持つ指型ロボットの骨格(A)を筒で覆って、隙間にコラーゲンと細胞を流し込んで培養させる(B)(資料提供:東京大学)
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(図)培養皮膚の形成では、3Dプリンターで作られた3つの関節を持つ指型ロボットの骨格(A)を筒で覆って、隙間にコラーゲンと細胞を流し込んで培養させる(B)(資料提供:東京大学)