ロボットは既に、われわれの生活やさまざまな産業で活躍している。留守中に掃除をしてくれるロボットや、工場で塗装や溶接を行うロボット、さらには放射能で汚染された危険な現場で人間に代わって作業を行うロボット――。これらはロボットが人間の代わりに自動的・自律的に動いて作業するもの。ただ、もう少し違った考え方もある。例えば人間が操作して人間の数千倍の力を発揮するロボットがそれで、最もイメージが近いのは、アニメーションなどによくある、人が搭乗して操作するものである。こうしたロボットも開発が進んでいる。

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人間の何千倍もの力が発揮できる汎用ロボットが実用化されれば、新たな産業革命が起きるくらいの出来事になる」。人機一体の社長である金岡克弥氏(立命館大学ロボティクス研究センター客員教授を兼務)は、こう話す。同氏が開発に取り組んでいるのは、人が操作し、人の何千倍もの力を発揮するロボット。狙いは、「皆が幸せに暮らせる社会づくりに貢献するロボットを作ること」(金岡氏)である。人型で、汎用的な作業をこなせるロボットを目指す。

ロボットと聞くと、人が操作しなくても自動的・自律的に動くものを思い浮かべることが多いかもしれない。しかし現時点の人工知能(AI)技術では、ある特定の作業はできても、自らの知能による判断で汎用的に行動するロボットの実用化にはまだ時間がかかりそうである。より現実的なのは、「高度なスキルや状況判断については人間が受け持ち、人間がどんなに鍛えても限界がある肉体をロボットで拡張すること。金岡氏は、「そうすることで、人間もロボットも自らの可能性をもっと広げられる」と主張する。

汎用的な作業を行うロボットにとって、人体の構造は一つの指標となる。「人は、生まれた時から人体を操ることをトレーニングし続けてきた。人間にとって、最も慣れ親しみ、最も操りやすい道具は自らの身体。その意味で、自らの能力を拡張する道具として人が操るには、人型ロボットは有望」というのが金岡氏の考えである。既に実用化されているものには、サイバーダインのHALをはじめ、医療や介護などで利用するアシスト型ロボットがある。ただ、人間の何千倍もの力を発揮できるロボットを作れれば、ブルドーザーやパワーショベル、クレーンといった重機の代わりにロボットを使って土木作業などを行うことができる。

現在工事現場などで活躍している重機は、左右のレバーを使ってものを運んだり穴を掘ったりする。当然、操作方法の習得が必要で、マスターするにはそれなりの訓練が必要になる。これに対して人型ロボットは、普段人間が行っている動作とほぼ同様の動きになるため、操作習得の期間を大幅に短縮できる。しかも重機と違って、操作の仕方やアタッチメントを変えるだけで「穴を掘る」「草をむしる」などさまざまな作業を一つの機体でこなせるわけだ。

操作に伴う危険の回避が大きな課題

力を増幅し、人の数千倍ものパワーを発揮するロボットを作ることは、現在のロボット工学をもってすればそれほど難しくないかもしれない。ただ、実際にそれを使えるようにするには、避けて通れない大きな課題がある。それを利用する人の安全をいかに担保するかである。巨大なパワーを持つロボットは、誤動作や想定外の操作によって、それを操作する人、あるいは周囲の人に大きな危害を与えるものになりかねないからだ。

この課題を克服するために金岡氏が辿り着いたのが、マスタースレーブ型で操作するロボットである。人間が操作するユニットを「マスター」、ロボットとして実際の作業を行うユニットを「スレーブ」と呼び、それぞれを機械的に分離する(写真1)。

(写真1)金岡氏が開発した上半身の動きを再現するマスタースレーブ型のロボット「MMSEBattroid ver.0.1」。 aがマスターユニット、bがスレーブユニット。脚部はまだ車輪だが、コックピットに座り、手足を使ってマスターユニットを操作すると、スレーブユニットが連動する。

テレビアニメやSF映画などに登場するロボットの中には、人間の肉体をロボットに接続するような方法で操作しているものもある。人間とロボットを肉体的につなげることができれば、直感的で細かい操作が可能になるかもしれない。ただ、それら架空の物語の中でも描かれているように、何か不具合が起きた場合には、人間が身体に大きなダメージを受ける。

例えば介護用ロボットスーツと同様の装着型ロボットをイメージしてみよう。介護用途で人を抱えて運んだりするような現場では、100kg程度の重さのものを数分の1に感じる程度の補助パワーが得られればよい。これを、別の用途でもっと重いものを運べるように、モーターのパワーを人間の数十倍に上げたらどうなるだろうか。万が一の誤作動で、モーターが強力な力でロボットスーツを装着している人間の身体を無理やり動かすようなことになったら…。恐らく、手が付けられないほど危険な状態になることが想像できる。

マスタースレーブ型による制御では双方向通信によって、マスターからの操作指示を忠実にスレーブに伝えると同時に、スレーブが感じている慣性や摩擦、外力などをマスターが受け取る。これによって、機械的にはつながっていなくても、互いの力のやり取りを感じることができる。スレーブからマスターには必要以上に大きな力が伝わらないようにリミッターが設けられている。スレーブが誤動作しても、マスターユニットの操作者にはそのままの力は伝わらないわけだ。金岡氏はこの技術を「仮想パワーリミッタシステム(Virtual Power Limiter System:VPLS)」として、2004年に特許出願している。