この研究のために金岡氏が最初に開発したのが、指のパワーを増幅する「パワーフィンガー」と、それを拡張して腕を使って動かす「パワーエフェクタ」である(写真2)。パワーエフェクタは指の力を1000倍、腕の力を50倍に増幅する。これを、装着するのではなく手で持つようにして動かす。

(写真2)腕や指の力を増幅する「パワーエフェクタ」 指先で軽くつまむ動作で、簡単に空き缶をつぶすことができる。操作する人間が力を加減することができるので、卵のようなものをつかむこともできる。

ここで重要なのは、操作する人間に主体感を持たせること。これも安全確保のための配慮の一つである。動かしている間、重さや抵抗を感じることができれば、危険な状況になったら手を離せば操作を止められる。自分が何か操作しているという意識を持たせることで、周囲に危険を及ぼす操作を抑制する効果も期待できる。「我々のシステムでは、得意不得意といった操作者のスキルの違いをロボットが吸収してしまうのではなく、忠実な道具として増幅する。だれもが同じような平均的な操作結果を得られるようにするのではなく、熟練操作者の高度なスキルを、より高度に拡張して発揮するための、奥の深い道具」と金岡氏は説明する。

一方で、現在開発中の脚部のスレーブ装置は、人間のスキル不足をコンピュータが補うハイブリッド方式を採用する。「人間の意志をロボットに忠実に反映させることも大事だが、苦手な作業をコンピュータに任せることも必要。人と機械が、それぞれ得意な部分を分担した上で、シームレスにハイブリッド化する」(金岡氏)。

マスターユニットは「近接型」と「搭乗型」の2通り

ロボットの制御に関しては、マスタースレーブ型の仕組みにすることで人間の安全を確保できる。一方、人間がロボットを操作する方式は、いろいろなタイプに分類される(図1)。その中で金岡氏が目標としているのは、マスターユニットをスレーブユニットの近くに持って行って操作する近接操作型のロボットと、その先にあるマスターユニットをスレーブユニットに乗せる搭乗型のロボットの開発だ。

(図1)「人が操作するロボット」に関する分類(人機一体の資料より作成)

搭乗型ロボットの開発は、近接操作型よりも人間の安全性の確保という面でさらなる課題があるが、「原理的には搭乗型の方が作りやすい」(金岡氏)。ロボットに汎用性を持たせるということは、単に2本足走行だけを考えて姿勢を制御すればいいわけではない。例えばスレーブユニットが四つん這い、仰向けといった姿勢になる場合、近接操作型では外部からロボットの体勢を想像し、自分の身体に置き換えて操作しなければならない。直感的な対応は難しい。この点、搭乗型なら、基本的にロボットと同じ姿勢になるため、操作をイメージしやすい。「人間のフィジカルな能力を拡張するうえで理想の姿として、2020年までに搭乗型ロボットの実用化試作機を作る」(金岡氏)という。

その目標に向かって、ロボットの駆動ユニットに関しても金岡氏が独自に開発を進めているコア技術がある。それが、モーターのトルク制御である。通常、モーターの開発といえば、パワーを上げることやエネルギー効率を上げることが重視されるが、「制御速度を重視し、ミリ秒ではなくマイクロ秒単位で制御できるモーターを作る。いずれはモーターとトルクセンサーを一体化し、それを関節に使うだけでロボットの体が構成できるようにしたい」という。