人間は道を歩く時、無意識のうちにさまざまな判断を下しながら進む。前方にある障害物を認識し、よけながら歩く。止まっているものはもちろん、前から自分に向かってくるものや、自分の進む速度よりも遅いものも、タイミングや位置、動きを見極めてよける。実はこれが、ロボットにとっては案外難しい。ロボットが自律的に屋外を行動できるようにするには、動いている3次元物体の形状、距離感などをリアルタイムに認識する技術が必要になる。

人間は、目の前にある物体の大きさや、自分とその物体との距離を目で見て瞬時に判断できる。車のように大きなものが前から向かってくれば道の端に寄るなどの行動をとり、前から向かって来るものが犬や猫などの小さな動物であれば、衝突する直前に体を横にずらすなどして身をかわす。

こういった、我々にとってはごく当たり前の所作がロボットにはまだ難しい。なぜなら、ロボットは動いているものの大きさを瞬時に計測することが苦手だからだ。現在研究されている自律移動型ロボットは、自律移動とは言っても、適用できるのは屋内や一定の条件を満たす屋外など、動くものが少ない場所に限られる。それならレーザーセンサーなどにより障害物を検知して、避けながら走行できる。しかし、一歩その空間を飛び出せば、人やペット、車などさまざまな動くものがあり、それらをよけながら進むことはなかなか難しいだろう。

(写真1)複数の自律移動型ロボットが公道を走行する公開実験「つくばチャレンジ」
現時点の自律移動型ロボットは、レーザーセンサーなどを使って静止物をよけながら走行することはできるが、動いているロボット同士が道を譲り合うのは簡単ではない。

こうした3次元物体の、大きさや形、位置、動き、速度などを離れた場所から把握するセンサーの開発に挑んでいるベンチャー企業がある。和歌山大学発のベンチャー企業、4Dセンサーだ。効率的かつスピーディに物体の形状などを測れるセンサーは、より便利な社会づくり、あるいは社会課題の解決に役立つ。

非接触で3次元物体の形状を計測する技術は、既にいくつもある。ただ、それらの技術のほとんどは、物体を制止させて、さまざまな角度から光を当てることによって計測するものだ。これに対して4Dセンサーは、動いている物体の形状を瞬時に計測する技術の研究に取り組んでいる。

その基盤となる仕組みとして開発に力を入れているのが、3次元物体の形状や変形、揺れ、たわみ、歪みなどを瞬時に計測するセンサーである。独自の計測手法を使うことで、ビルや橋などといった構造物から電子部品まで幅広くモノを計測できる点が特徴である。

ビルの窓の列を格子に見立てて変形を計測

大きな構造物の変形や揺れなどを計測する場合は「格子柄」を利用する。例えばビルを計測する場合、少し離れたところからビル全体をカメラで撮影。窓枠を格子柄と捉え、窓枠の位置のずれや変形などを独自の手法によって画像解析する(写真2)。このずれや変形の度合いから、ビル自体の変形や揺れなどをリアルタイムに計測できる。地震時の揺れに関する観察はもちろん、夏場の太陽光の熱によって起きる建物の変形などといった、微妙な差も正確に計測できるという。

従来、構造物のずれや変形を計測するには、構造物の複数の個所に設置したセンサーからの“点”の情報を観測し、全体の変形を算出するしかなかった。これに対して、格子柄を利用した方法では1台のカメラを使うだけで、面単位でビル全体を計測できる。

(写真2)ビルの窓に現れる格子柄のモアレを解析して変形や揺れを計測
(モアレ研究所の資料から作成)

特殊な用途で建てられた、窓がないビルや、橋梁などビル以外の建築物でも、格子柄のシートを建物に貼り付けることで計測できる。橋梁にシートを貼り付け、車両や列車が通過した際にたわむ様子を計測すれば、昨今問題となっている経年劣化による耐震性への影響など、インフラの調査にも活用できる。実際、4Dセンサーでは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などとのプロジェクトに参加して橋のたわみを計測している。電車が橋の上を通過すると、強く負荷がかかっている部分が画面上で赤く表示され、どのようにたわんでいるかをリアルタイムに知ることができる。前述したように、建築物以外の計測にも利用できる。

例えば電子部品やプリント基板などの製造工場での、部品や基板の変形具合のチェック。現状では、このサイズの物体のセンシングはまだ実用化できていないが、完成すれば「部品や基板などを生産ライン上に流しながら瞬時に単品の不具合を検査できる」(4Dセンサー 代表取締役社長 柾谷明大氏)という。建築物などとは手段は異なるが、「物体の柄」を応用して計測する点は変わらない。従来は、生産ライン上を流れている部品を一旦制止させてからセンサーで状態を把握するしかなく、1回の検査に20~40秒ほどの時間がかかるのが普通だった。これを効率化できれば、製造する部品の全量検査が可能になり、製造現場での生産性が大きく向上する。