効率的な3次元計測の秘密は、進化した「モアレ」解析

このような3次元物体の変形やゆがみなどの計測に利用されるのが、サンプリングモアレ法と呼ばれる手法だ。モアレ(干渉縞)とは、規則正しく整列した格子模様を複数重ね合わせた際に、個々の模様が持つ微妙なずれによって発生する縞模様のことである。たとえば、2枚の縞模様を重ね合わせた場合、各々で縞の間隔や角度などがまったく一致している場合はなにも変化が起きない。しかし、縞の間隔や角度などが少しでも異なっている箇所があると、そこにモアレという新たな模様が発生する。このモアレを解析すれば、2つの模様のずれ具合を正確に計測することができる。この手法はモアレ法と呼ばれる。

モアレ法によって物体の変形量を計測しようとすると、変形前と変形後という2枚の画像を用意する必要がある。これに対しサンプリングモアレ法では、撮影した1枚の画像だけでモアレを解析できる。テレビを見ていると、ときどき出演者が着ているストライプ模様の服にモアレが現れることがある。また、デジタルカメラで撮影した画像にも、同様にモアレが現れることがある。これは、テレビカメラの走査線やデジタルカメラの画素の配列パターンと、画面に映りこんだ服の柄が重なることによって起きるモアレ現象だ。これを応用する。

もう少し具体的に言うと、サンプリングモアレ法では、カメラの走査線や画素の配列に合わせて、撮影した対象物の格子パターンをサンプリングによって間引くことでモアレを生じやすくする。写真2のように1枚の写真だけでリアルタイムに変形を計測できるわけだ。4Dセンサーが開発した「サンプリングモアレカメラ」と呼ばれる装置は、ソフトウエアによる処理で物体の変形を計測するため、市販のデジタルカメラのほか、スマートフォンのカメラで撮影した画像も利用できる。

サンプリングモアレ法は、和歌山大学の名誉教授でもある4Dセンサー 代表取締役会長の森本吉春氏が開発した手法で、もともとはインフラ構造物の安全性を知るために考えられた。森本氏はモアレ研究所の所長でもあり、日本におけるモアレ研究の草分け的存在だ。4Dセンサーという社名には、3次元計測を瞬時に行うことができるという意味を込め、縦、横、奥行きに時間という次元が加えられている。

(写真3)サンプリングモアレカメラによる変形の計測
消しゴムの表面に描かれた2次元の格子の変形を、デジタルカメラで撮影して変形量を分析する。

一方、電子部品の形状などを計測する際に用いられるのが「シャドーモアレカメラ」と呼ばれる装置だ。この装置は物体に光を当てる光源と、物体を撮影するカメラを組み合わせたもので、計測対象の物体に2つ以上の格子柄を重ね合わせて意図的にモアレを作り出し、このモアレの分布などを解析することで立体的な形状を計測できる。

ほかにも、対象物に格子パターンを1回投影するだけで形状が計測できるという「OPPAカメラ」も開発中だという。

“瞬間3次元計測”は生活のさまざまなシーンに広がる

現時点では、まだ太陽光の下で格子状の光を当てても、輝度の関係でそれを正確に読み取ることが難しい。したがって、屋外で動いている物体の形状をこの方法でリアルタイムに計測するにはもう少し時間がかかりそう。ロボットへの実装として現実的なのは、ロボットアームなどでの利用である。人間は何かものをつかみ上げる時、指をかけやすい箇所を探して効率よくつかむ。つかむ前に対象物を見て判断しているのだが、ロボットにもそういったつかみ方を教えてあげれば、形状が異なるものを効率的に移動させる作業に役立てられるだろう。

もちろん、瞬時にものの形状を計測できるカメラがあれば、ロボット以外にも様々な活用の可能性がある。最近ではブティックなどで、試着しなくても画面上でいろいろな服を試せるサービスがある。この時、顧客の体形を瞬時に計測できればサイズ選びが簡単になる。フィットネスクラブでは、体重と同じように体形を数値として記録でき、日々のトレーニングによる成果を目で感じられるようになる。口の動きなども正確に計測できるため、人の声が聞き取りにくい場所でも相手が話している言葉を唇の動きから解釈する、読唇術を行うような装置を作ることができそうだ。