起床時の心拍で疲労がわかる

──例えば「免疫が下がっている」といったことも可視化できるのでしょうか?

宮田氏(以下、敬称略):疲労が蓄積すると免疫低下にもつながる可能性がある、というのは医療分野で言われていることかと思います。今、プロや部活の強豪チームの多くは、朝起きた時の心拍数を疲労の重要な指標として見ています。睡眠の質が落ちたり、疲労がたまったりすると、起床時の心拍数が上がるケースが多く、その情報をもとに練習量を調整したり、ケアに役立てたりしています。私も毎朝心拍数を計測していますが、疲労がたまったり、二日酔いになってしまったりすると、数値が高くなる傾向にあります。起床時心拍を計測することは、特にトップスポーツ界ではここ数年で広がっている印象です。

疲労については、長年トップレベルのチームに関わらせていただいてきた経験から、わかってきたことも多くあります。競技によって少し異なりますが、体の部位別の筋肉痛や違和感は、怪我の予防のために大事な情報にもなっています。しかし、センシングなどのテクノロジーの進化とともに、もっと見える化できるものがあるのではないか、もっと簡単に気づくものがあるんじゃないか、と日々探しています。

──どのようなものが見える化できると考えられますか?

宮田:心拍のデータからは、もう少しいろいろなものが見えてくると思います。熱中症の予兆や女性の生理不順を心拍データから解明するという研究も大学と連携して行っています。そういった研究も進めながら、ワンタップスポーツはエビデンスの出たものは機能として実装していくことを考えています。疲労をためない、栄養と睡眠が大事、と厚労省も言っていますから、そういうものをきちんとモニタリングしていくことで、多くの人の健康に貢献していくというのも僕らのミッションと思っています。

ユーフォリア代表取締役・宮田誠氏
ユーフォリア代表取締役・宮田誠氏

──自動でデータが入力されると、より便利になります。

宮田:寝ているだけで睡眠のデータを計測できる寝具やセンサーなども非常に多く出てきています。そういうものからデータを自動的にワンタップスポーツに取得する取り組みも進めていますので、それは時間の問題でしょう。最近では、映像からも精度の高いデータが取得できるようになってきました。近い将来、ウエアラブルデバイスは陳腐化し、映像などから自動的にセンシングされてデータを引き出す時代になるのではないでしょうか。

これまでは「何のデータを取るか」「どうやって取るか」の競争でしたが、そこから「データをどうやって使うか」「何を見つけるか」というフェーズに移ってきているように思います。データから何を導けるかということになると、かえって経験や直観が生きてくるのではないかと強く感じています。

AIを利用した精神状態の見える化にも挑戦

──人工知能(AI)による音声感情認識などを利用した、精神状態の可視化にも取り組んでいらっしゃると聞きました。進捗具合はいかがですか?

宮田:精神状態について、現在のワンタップスポーツでは、精神的疲労度という主観データの毎日の変化を見ていく方法と、精神的疲労度や睡眠の質といった主観データに、睡眠時間などの客観データを掛け合わせる方法で見える化を試みています。もう少し細かく見たい場合は、質問項目をさらに細分化したアンケートを取っていますが、これもあくまで主観です。ですから今は、外部企業と連携して声や目線、汗、心拍といったさまざまなデータから「精神状態の客観化」を目指してトライしているところです。

わかってきたのは、非常に当たり前かもしれませんが、やはり心と体はつながっているということです。プレッシャーを受けながら非常にハードな練習をしている時や、特に今のように隔離された状態で自主練をしている時などは、メンタルの疲労もたまっていく可能性があります。逆もまた然りで、メンタルが疲れてくると体のパフォーマンスも落ちていく可能性があります。

また、主観+客観というのも大切で、「大丈夫」と本人は思っているけれど、体は悲鳴を上げていたり、声などのデータを解析してみると実は疲れていたり、ということもあります。この主観と客観のズレをいかに計測できるかがポイントになると思います。

──プロチームや強豪チームがユーザーの中心ですが、一方でデータを読み取る知識のある指導者がいなくても有効活用できるようなアプリの汎用化も目指していらっしゃいます。今回、高校や大学の部活動に広く使われるようになったことは、そのきっかけになるのでしょうか? 今後の展望も併せてお願いします。

宮田:コロナ禍において、これまでプロスポーツなどの一部のトップアスリートしか意識していなかったことや、最先端のテクノロジーなどが汎用化され、だれでも使えるようになっていくことが増えるのではないかと思います。そういうニーズがあることは確実に見えてきました。

ワンタップスポーツはトップスポーツとのかかわりから始まっていますが、テクノロジーやビジネスは一般社会の課題に役立たなければいけない、という思いは創業当時から変わりません。ですから、まずはプロアマ、年齢性別、レベルも問わず広く使っていただけるものに進化させて、スポーツ界に貢献したい。そして次に、スポーツで培ったテクノロジーで、あらゆる人がより健康にハッピーになるお手伝いをしたいと思っています。