実戦が練習、目指すは部員全員が1500打席

実戦を重視する武田高校では、部員が4チームに分かれて戦うリーグ戦を年間50試合行っている。グラウンドを全面使えることが多い始業前や土日をフルに活用する。来るとわかっている球を捕るノックの代わりに、実戦で守備の経験を積む。また、こだわっているのは打席数で、部員全員が1人当たり3年間で1500打席を目標にしている。優勝チームには焼き肉食べ放題のご褒美が出るため、みな真剣だという。

「基礎練習は大事ですが、基礎ばかりでは基礎の大切さがわからなくなる。だから、試合をやって失敗して、どうすればいいの?と考えさせてから基礎をやったほうが入ると思う。部内リーグにはそういう意味もあります」(岡嵜監督)

部内リーグでは、昨年から野球部に加わった理科教諭の井上遼副部長が詳細なデータを取り、一人ひとりの投球や打撃の傾向を分析している。試合途中でも気兼ねなく、部員同士で動画を撮影することが出来るのも、部内リーグの良さ。時にはインカムで捕手と監督をつなぎ、配球について話しながら試合をすることもあるそうだ。全生徒にiPadが配布されている武田高校では、部内リーグのチームのメンバーでWEB上にグループを作り、動画を投稿してアドバイスし合ったり、反省点を話し合ったりすることも活発に行っている。WEB上のグループには監督、コーチも入っており、「うまくなりたい」という選手の思いにすぐに応えられるようにしているという。

デジタル技術を有効に使い、選手のプレーを分析。グラウンドでできないアドバイスもWEB上で行う
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「僕らの『つらい』は数値がいかないことだけ。引退しても終わりではなく、もっともっと自分を伸ばせると思えることが武田の野球のいいところだと思います。部活が楽しく、ここで野球が嫌いになる者はだれもいない」。主将の郷地陽希捕手は、そう言い切った。昨夏の県大会では8強入りし、甲子園も意識した今夏。残念ながら2回戦で9回2死から逆転され敗退したが、引退が決まった3年生が試合後に率先して自主練していたというエピソードが、部内の雰囲気を物語っている。

体づくりを中心に行う中学の同好会を立ち上げ

武田高校は今年4月、併設する中学校で野球同好会を発足させた。高校やその先の活躍を見据えて中学では体づくりを中心に行う、おそらく日本で初めてと思われるシステムだ。

同好会は中体連には所属せず、練習試合しかしない。練習試合は相手に合わせて硬式でも軟式でも対応する。日曜は完全にオフで、野球の練習は週3回のみ。あとの日は兼部してゴルフ、水泳をし、コーチとサッカーやバスケットボールなど他の球技を楽しむ日も設けている。中学3年の2学期からは高校野球部と共に練習する。成長期に無理をさせず、バランス良く体がしっかりできてから、技術を積み上げる計画という。

部員は現在、3年生が1人、1年生が3人。既にU13のニュージーランド代表になっている生徒や、スキー競技で西日本3位の実績を持つ生徒もいる。岡嵜監督は「中学で背を伸ばせる時に栄養素が足りなかったり、睡眠が足りなかったりで、背を十分に伸ばせていないところもあります。何十年も前から日本の選手が指摘されている、フィジカルの課題を払拭するような『アスリート』を育てたい」と意気込む。

山に囲まれた武田高校のグラウンド。ここから世界で活躍する選手が育つかもしれない
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高校野球は昨夏の甲子園で第100回大会という節目を迎え、まもなく101回目の大会が始まる。残念ながら野球人口は減少し、成長途上での無理な練習でけがをする子どもたちも後を絶たない。厳しい練習に耐え結果を残した者だけが残っていく選抜型ではなく、すべての部員の可能性を広げる武田高校の挑戦。「野球が好き」という子どもたちがみな、いつまでも野球が好きでいられる、未来への挑戦でもある。