東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場として建設された国立競技場。ナショナルスタジアムの役割を担う特別なスタジアムには、新たな「聖地」にふさわしく、スポーツの迫力や臨場感をより効果的に“魅せる”、最新の技術が結集されている。中でも普段あまり意識することのない照明に焦点を当て、その技術に迫った。

4K・8K放送、スーパースローにも対応する先進のLED照明

新国立競技場には約1500台のLED投光器が屋根の先端にぐるりと設置されている。競技用照明が約1300台、観客用照明が約200台で、陸上、サッカー、ラグビーのそれぞれの基準に合わせた照明に切り替えることができる。LEDの特徴である瞬時の点灯・再点灯のほか、明るさを50%や20%にするなどの段階的な調光も可能だ。

国立競技場の屋根に取り付けられたLED照明(写真:吉成大輔)

スタジアム照明の役割は、第一に明るさを確保し、プレーヤーにも観客にも見やすい状態にすることだ。加えて、最近のトレンドとして、テレビなどの映像配信を意識した照明がより求められるようになっているという。

LED照明を納入したパナソニックでは、5年以上前からNHK放送技術研究所と共同で、高精細な4K・8K放送に対応する最適な色合いの光の基準を研究してきた。4K・8K放送は再現できる色域が広く、照明の光による見え方の違いが、映像の色差に大きく影響するからだ。研究の結果、色の見え方の指標であるRa(平均演色評価数=自然光で照らした時の見え方を100とし、それに比べてどの程度忠実に色を再現しているかを表す数値)が90以上、赤色の見え方を表すR9(赤色の特殊演色評価数)が80以上の照明であれば、4K・8K放送においてクリアな色を再現できることを確認した。

「国立競技場に納入したLED投光器は、この研究結果をもとに開発したもので、Ra90かつR9が80の光を実現しています。白色LEDは青色から発光させるため、特に赤色は再現しにくいことが欠点とされてきたのですが、光の波長を最適に制御することで効率をできるだけ落とさずに、従来のLED照明に比べて赤色が非常にクリアに見えるようになっています」と、パナソニック株式会社ライフソリューションズ社ライティング事業部エンジニアリングセンター屋外照明EC主幹の栗本雅之氏は語る。

パナソニック株式会社ライフソリューションズ社ライティング事業部エンジニアリングセンター屋外照明EC主幹の栗本雅之氏(写真:編集部)

パナソニックによると、ハイビジョン放送はRa80以上を推奨している。より臨場感を増す映像の進化に合わせ、照明も進化している。

さらに、スーパースロー映像を多用する傾向にあるスポーツ中継では、照明の不快なチラツキを最小限に抑えることも求められている。国立競技場のLED投光器は、「フリッカファクター」(照明の明るさの最大値と最小値の差異の数値)を1%未満に抑える点灯技術を搭載しており、チラツキを感じさせないという。フリッカファクターは、基本的に3%以下であればスーパースロー撮影時でもチラツキが起きないとされる。

「LEDは直流電源で光るため、理論的には点滅によるチラツキは起きません。しかし、一般に流れている交流電源を直流に変換する必要があり、変換がうまくいかないとチラツキが出てしまいます。LEDの出来始めの頃は、チラツキによって気分が悪くなるといった問題もありました。特にスーパースローでは人間が認識できない細かい点滅でも影響が出てしまいますから、当社では電流を平滑化する技術にもこだわり、チラツキを大幅に抑制しています」(栗本氏)