ムラのない明るさを確保しつつ、選手がまぶしくない光を追求

国際大会の開催も見据えた国立競技場ならではのハードルもあったという。

「国際大会の基準になると、照度の設定が非常に高くなるんですね。テレビ映りを良くするため、特に人の顔を明るくする鉛直面照度が重要視されます。さらに、カメラで撮影すると明るい部分と暗い部分のムラが出やすくなるため、鉛直面と水平面の照度の差をできるだけ減らすなど均整のとれた明るさも求められます。ムラをなくそうとするとかなり遠くに光を飛ばす必要があり、そうなると選手がまぶしさを感じることになります。高い照度をムラなく確保しつつ、まぶしさをどう抑えるか、難しい設計になってくるのです」(栗本氏)

LED照明の導入に際しては、多くの場合、選手が感じるまぶしさ(グレア)の解消が課題となる。「まぶしさを軽減するポイントは、光が重なり塊にならないようにすることです」と栗本氏。パナソニックでは独自の配光設計技術で、光源から狭い角度で光が発せられるようにしており、光を分散して塊になりにくい工夫をしている。

光の重なりを減らすことで、まぶしさを軽減している(写真:吉成大輔)
光の重なりを減らすことで、まぶしさを軽減している(写真:吉成大輔)

同社にはどのように照らされるのかをリアルな3次元の空間で再現する独自のVR技術があり、設計段階から、まぶしさを解消する設置角度などについても検討したという。このVR技術では、投光器の最適な台数や設置位置、照射方向のシミュレーションのほか、フィールド内の任意の場所、視線方向で見た時に、1台1台の投光器から光がどのように目に入るのかを確認することもできる。従来は納入後に現場でまぶしさを確認してから調整するしかなかったが、VR技術で工期の短縮も可能になった。

まぶしさの基準は国際照明委員会で認定されたGR(グレア・レイティング)という指標があるが、この基準は選手の視線が水平より2度下のフィールドを向いた時に感じるまぶしさの指標となっている。このため同社では、LED照明で特に問題となる、選手の視線が上向きの際のまぶしさを計る指標も独自に構築し、まぶしさの解消に生かしている。

「日本の鉛直面の照度の基準はそれほど高くないため、日本の競技場は欧米の競技場と比べると、人間の顔の位置は暗くなっています。日本の選手は鉛直面照度の高い競技場に慣れていないため、どうしてもまぶしく感じがちです。ですから、VRであらゆる位置からシミュレーションしながら、できる限り光を分散させ、光源を見上げた時の光の塊感を低減する配慮をしています」(栗本氏)

観客を盛り上げる華やかな光の演出も自在に

国内では2015年以降、屋外スタジアムの照明設備でもLED化が進んできた。LED照明のメリットと言えば、消費電力の削減や長寿命によるコスト減が挙げられる。国立競技場の照明は光源寿命が4万時間で、寿命が尽きても消えるのではなく85%の明るさになるだけという。電子回路などの寿命が器具の寿命とされるほど、光源の寿命は半永久的なものとなっている。加えて、瞬時の点灯・消灯や調光が自在に行えるLED照明には、演出面でも活用しやすいというメリットがある。

2019年12月に行われた国立競技場オープニングイベントのフィナーレでは、照明が消された暗闇の中、観客のスマートフォンのフラッシュライトだけが光る演出で盛り上げた(写真:栗田洋子)
2019年12月に行われた国立競技場オープニングイベントのフィナーレでは、照明が消された暗闇の中、観客のスマートフォンのフラッシュライトだけが光る演出で盛り上げた(写真:栗田洋子)

国立競技場のLED投光器は、さまざまな演出ができる仕様にはなっていないが、例えば味の素スタジアムや大井競馬場に導入されたLED投光器は、点灯や0~100%の調光が1灯ずつ自由に素早くできるようになっている。本馬場を光が走っているように見せたり、音楽や映像と連動して点滅したり、滑らかにすーっと消えたり、といった演出が、デジタル信号による制御システムで簡単にできるという。より華やかになるカラー照明やムービングライトとの連動も可能だ。

栗本氏は「これからは照らすだけではなく、観客を楽しませる光が重要になってくると思います。当社はもともと舞台照明もやっており、照明演出技術もあります。スタジアムやアリーナを中心とした街づくりが盛んになってきている今、スタジアム自体がエンタメ性の高い施設になるよう、駅からの道のりや競技場周辺も含めて光による演出を提案していきたい」と話している。