新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が全国に広がった2020年4月中旬、国内最大級のヨガイベントが全てオンラインに切り替えて開催され、大成功を収めた。国内外からの参加者は、前夜祭を含む4日間で計2万8099人。呼吸法や瞑想を組み合わせ、さまざまなポーズをとることで心身を整えるヨガはオンラインと相性が良く、コロナ禍の中でニーズも増えている。同イベントを主催し、6月からは大学病院におけるがん患者向けオンラインヨガの支援も始めた株式会社アンダーザライト(東京・渋谷)の倉持倫之代表取締役と船越弘志氏に、オンラインヨガの可能性について聞いた。

地方からの集客にも成功 「新しい生活様式」の新たな活路に

──ヨガイベント「オーガニックライフTOKYO」(4月17~19日)の初日は、まさに緊急事態宣言が全国に拡大された日でした。刻々と状況が変わる中、オンライン開催を決断された経緯を教えてください。

倉持氏(以下敬称略):「オーガニックライフTOKYO」は例年、東京都内の会場で飲食や物販などのブースも設けて行っており、約3万人が訪れる大規模なヨガイベントです。世界的な感染拡大を受け、3月10日頃には6月に延期しようと会場を仮押さえしました。しかし、その数日後に国内でも感染者が急増し、6月開催すら難しい状況が予想されました。思い切ってオンラインでの開催を決断したのは、一つは120名の講師に何とか講師代をお支払いしたかったからです。また、クラスターの発生源としてフィットネスクラブの危険性が指摘される中、9割以上がフリーで活動している講師の方々が生活を維持するための術として、新たな活路を開きたいという思いもありました。

100%オンライン配信で開催した「オーガニックライフTOKYO」のWEBサイト。28099人が参加し、オンラインヨガの可能性を示した(写真提供:アンダーザライト)

イベントの講師はヨガ界では著名な方ばかりです。皆さんビデオ会議システムを使ったクラスの経験はなく、当初はほぼ全員がオンライン開催に難色を示されました。生徒の表情や体のさまざまな部位を観察しながら指導するため「オンラインでは無理」という方が非常に多かった。スタッフが手分けして電話し、「おそらく今後もこのような状況が続き、レッスンを提供するためにはオンライン化が重要になってくる。その試金石として、世界初の100%オンラインのヨガイベントを一緒に成功させましょう」と呼び掛けました。その結果、9割の方が賛同してくれました。

──イベントでは100クラスがオンラインで生配信されました。実際行ってみて、いかがでしたか。

倉持:レッスン参加希望者は例年を大きく上回りました。改めてゆったりした動きのヨガはオンラインと相性が良いことを実感しました。リアルのイベントの際は、来場者は8割以上が東京・神奈川・埼玉・千葉の方だったのですが、今回はそれ以外の地方からの参加者が大幅に増え、海外32カ国からも参加がありました。

倉持倫之・アンダーザライト代表取締役(写真提供:アンダーザライト)

全クラスに参加できる1日チケットは通常9200円でしたが、今回は開催予定だった会場名「3331 Arts Chiyoda」にちなんで3331円に設定しました(1クラスの受講費は333円~1999円)。遅れての参加や、途中退場も可能でしたので、受講の敷居を下げることにもつながったのではないかと思います。

船越氏(以下敬称略):参加者の反応はポジティブなものが多かったです。特に「移動の必要がなく、時間を有効に使える」という声が予想以上にありました。「自宅の環境でリラックスして快適に受講できた」「これまで一歩踏み出せなかった、有名な先生のレッスンに参加することができた」という喜びの声も多く寄せられました。

参加者だけでなく、遠方の講師の方にも参加いただくことができました。例えば、前夜祭で世界的に有名なイタリアのヨガインストラクター、ロベルト・ミレッティ氏のオンラインレッスンを無料で開催したところ、前日昼の告知だったにもかかわらず、1000名以上の参加者が集まりました。本番でも海外から十数名の著名なインストラクターに登場いただき、好評でした。YouTubeの登録者数が100万人を超えるような講師に登壇いただけるのも、オンラインならではだと発見しました。

また、参加者の数に制限がないのもメリットだと思います。意外だったのは、自身のカメラをOFFにして受講する方が多かったことです。開催前は講師にポーズを見てもらいたい人が多いと予想していたのですが、実際はポーズを見てもらうためにカメラをONにする方は1~2割しかいませんでした。

「オーガニックライフTOKYO」では配信統括として運営をサポートした船越弘志氏(写真提供:アンダーザライト)

──講師の反応はいかがでしたか。

船越:講師からもポジティブな意見が多かったです。実際に経験してみて、自分のスタジオを閉めてオンラインでレッスンを始めている方も出てきています。今回、好評だった講師はやはり教え方や知識がしっかりした経験豊富な方でした。手で触れてポーズを修正するといったことができないため、オンラインではより指導力が問われると感じました。

──技術的な問題はありましたか。

倉持:イベントではほとんどの講師の方に自宅からZoomで配信してもらいました。講師の皆さんがカメラの性能の良いスマートフォンなどをお持ちだったことは幸運でした。1000名程度が同時に視聴しても安定して配信でき、安堵しました。

船越:私たちも初めての試みでしたので、事前準備がかなり大変でした。配信するうえでのトラブルはなかったのですが、細々とした問題はやはりありました。例えば、1日チケットを購入した方向けの、すべてのクラスの視聴URLを掲載したWEBページにアクセスが集中し、つながりにくくなってしまい、対応に追われました。

ライブにこだわり がん患者向けの配信やグローバル化の試みも

──イベントの成功を受け、運営するヨガスクールでもオンラインヨガのサービスを始められました。

倉持:月額固定料金でライブ配信のクラスが受け放題というサブスクモデルを提供しています。オンラインでヨガといえば、低料金で多くのコンテンツを提供し、見たい時に見られるというモデルもあります。しかし、私たちがこだわっているのは、録画ではなく、ライブで配信することです。講師と参加者のつながりや、その場にみんなで集まって同時に行う体験を重視したいと考えているからです。ただ、「朝の瞑想のクラスを夜寝る前に受けたい」といった要望もありますので、一部は録画したものを再放送することを考えています。

実はオンライン化により、クラスの運営方法が革命的に変わってきています。受講者のポーズを確認するためには、やはり50~60インチのモニターが必要なのですが、講師自身がポーズをとりながら受講者の映像を見て教えるのは難しいんですね。ですからポーズをとる人を別に入れ、講師はモニターで受講者のポーズを確認することに専念する方が増えています。ポーズをとる人を3人入れて、正面、右横、左横の3方向でデモンストレーションするといったクオリティの高いクラスも出てきています。

もちろん、配信中はスタッフが必ず1人は張り付いて、講師が指導に専念できるようサポートしています。講師と受講者が安心してクラスに参加できる環境を作ることも、私たちのこだわりの一つです。

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月200を超えるクラスがライブ配信で受け放題のサービスも提供している(写真提供:アンダーザライト)