副業・兼業という新しい働き方を生かし、ビジネス界で活躍する人材とスポーツ団体をマッチングさせる試みが注目されている。2019年度に実施されたスポーツ庁の「スポーツ団体経営力強化推進事業(外部人材の流入促進)」では、中央競技団体や地域のプロクラブ・リーグ12団体18ポジションの募集に対し、2400名もの応募があった。これまでスポーツ産業と縁のなかった外部人材のスキルや経験を活用することで、スポーツ団体の経営力強化を図るのが狙いだ。ビジネス人材の加入は、スポーツ界にどのような変革をもたらすのか。

2019年度、マッチングに成功したのは8団体16名(2020年3月27日時点)。プロバレーボールチーム「ヴォレアス北海道」を運営する株式会社VOREAS(本社:北海道旭川市)は、マッチングが非常にうまくいったケースの一つだ。

2016年、道内初のプロバレーボールチームとして誕生したヴォレアス北海道は、2017年から参加した男子Vリーグ3部で2年連続優勝し、昨シーズンは2部リーグ2位。「(設立から)最短での日本一」を目指す新進気鋭のチームとしてだけでなく、スポーツチームの枠を超えたユニークな経営戦略でも注目されている。

地元ファンの熱い声援を受け、V1リーグ昇格を目指す「ヴォレアス北海道」(写真提供: VOREAS)

例えば、2019年11月から開始した、はちみつの販売。日本にほとんど流通していない希少なハンガリー産のはちみつは、単なるコラボ商品ではなく、品質にこだわった健康食品として、チームを知らない人にも購入される人気商品となっている。さらに2020年8月には、公式グッズ、チケット、映像コンテンツなどすべての商材を販売する公式ECサイトをオープン、D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマ)ブランドとしても動き出した。道内700店舗以上の提携店で使える地域ポイントカード「EZOCA(エゾカ)」(会員数190万人)との提携やホームゲームでの完全キャッシュレス化により、ファン層の購買傾向などのデータを把握し、ファンサービスや商品企画、スポンサーへのビジネス提案につなげているのが強みだ。

攻めの経営を進めるため、スポーツ庁事業でマッチング

ヴォレアス北海道はもともと、旭川出身で大学までバレーボール選手としてプレーしていた代表取締役社長の池田憲士郎氏が「生まれ育った北海道をスポーツの力で元気にしたい」と、1人で地元企業を回るところから立ち上げたチーム。ビジネスパートナーとして企業と関係を築き、人脈が広がる中で、業界初の施策を次々と打ち出してきた。しかし、チームの成長とともに組織が拡大し、社員が10人ほどに増えたことで、1人で新たな事業を開拓しながら組織をマネジメントすることに限界を感じていたという。

「スポーツチームを運営する上でパートナーセールス(スポンサーセールス)は大切ですが、そこに収益を依存する形は不健全だと考え、自立して収入源を確保する基盤づくりを設立当初から意識してきました。やっている事業はいわゆる既存のスポーツビジネスではなく、前例のないものばかり。僕が思い描く新しい企画やコラボレーションのアイデアを形にできる優秀な人材にサポートに入ってもらうことで、これまでと同じスピード感を保ったまま、組織を大きくできると考えました」と池田氏。

池田憲士郎・VOREAS代表取締役社長(写真提供:VOREAS)

マッチング事業に手を挙げたものの「できたばかりの北海道のチームにどれだけの人が集まるのか」と半信半疑だったという。だが、蓋を開けてみれば、企業との共同事業を企画・推進するアクティベーション企画マネージャーの募集だけで132名の応募があり、東京で開催した説明会にも40数名が参加した。

選考を経てアクティベーション企画マネージャーに採用された増井稔樹氏は、保険業界を経て、事業再生ファンドのベンチャー企業を立ち上げた経歴を持つ。池田氏は「普通に探すと絶対に見つからない人材。求めていた人物像に増井さんはぴったりだった。環境問題へのアプローチや北海道の食のプロデュースなど、いくつか取り組みたいプロジェクトがあり、将来的にはそういうものを全面的に任せられる人物だと思っている」と期待を寄せる。

増井氏は現在、買収した企業の執行役員として経営戦略などを行う本業の傍ら、週末や就業前後の空き時間を利用して、さまざまなプロジェクトの提案資料作成など池田氏の補佐的な業務を担う。東京在住だが、オンライン会議や池田氏が来京した際に打ち合わせを行うことで、十分対応できているそうだ。

VOREASに採用されアクティベーション企画マネージャーとして活躍する増井稔樹氏(写真提供:増井氏)

本業で培った事業立ち上げやプロジェクトマネジメントのスキルと経験をVOREASに役立てる一方、「新しい取り組みにチャレンジするVOREASでの仕事が本業に生きる相乗効果も生まれている」と話す増井氏。「業務を進めていく中で、池田氏から評価していただいていることもあり、将来的には旭川に移住しフルコミットで従事することも選択肢としてはあり得ると思っています。とはいえ、いきなり行ってどこまでできるかわからず、チームにとっても完全雇用はハードルが高い部分があるので、すりあわせの期間としても副業・兼業は有効ではないか」と副業・兼業のメリットを指摘する。

増井氏が募集に応じたきっかけは、そもそもスポーツ、教育分野に興味があったことに加え、池田氏の地域復興への思いや「子どもたちの憧れの存在として、夢を持つこと、挑戦することを伝えたい」という理念に共感したことが大きかったという。「旭川でバレーと聞くとメジャーではない部分が多いけれども、池田さんをはじめVOREASのメンバーには強い意識がある。既存の枠組みにとらわれない“日本で一番面白い、攻めのチーム”と言われるよう、期待に応えていきたい」と意欲的だ。

副業・兼業の働き方で優秀な人材の流入を促進

スポーツ庁がスポーツ団体の経営力強化を目指す背景には、2025年までにスポーツ市場規模を5.5兆円から15兆円に拡大するという政府の目標がある。そのための施策の一つとして、マッチングを通じ、スポーツ団体への外部人材の流入を促進する事業が行われている。

これまでの調査では、多くの団体で経営人材のスキルが不足していることが推察され、外部からの人材流入を阻害する構造的な要因もあることがわかった。阻害要因としては、転職希望者による情報収集の難しさ、スポーツ団体の給与水準の低さのほか、スポーツ団体側が求人を行う前提となる経営課題の整理ができておらず、課題解決に必要な人材像の明確化ができていない、外部人材との接点がない、などが挙げられた。

スポーツ庁の委託事業に2018年度から関わるPwCあらた有限責任監査法人(本社:東京都千代田区)システム・プロセス・アシュアランス部シニアマネージャーの大久保穣氏は次のように語る。「スポーツ団体の運営にはさまざまなスキルが複合的に必要になりますが、それを1人で担える人物は当然スペックが高く、フルタイムで採用しようとすれば高いサラリーを用意する必要があります。しかし、日本のスポーツ界ではそのような人材に投資できる団体は限られています」。これらの課題を乗り越えていく一つの方策として、副業・兼業での採用の可能性を探っていったのが2018年度。実証的にマッチングを行ったのが2019年度の事業だという。

PwCあらた有限責任監査法人の大久保穣氏(写真提供:PwCあらた)