地域との結びつきでビジネスは多角化

──365日モデルは、元来「非日常」だったプロスポーツを「日常化」するものにも思えます。

荒木 おっしゃる通りです。プロスポーツは非日常空間だからこそ高揚感や感動を得られるものです。それを日常化するということは、言い方を変えるとスポーツが持つ強みや特異性を生かせなくなると同時に、他のコンテンツすべてが競合になることも意味します。ですから、非日常的なコンポーネントを大事にしながらも日常に取り入れていくということも忘れてはなりません。

──その点が押さえられれば、ビジネスの可能性は飛躍的に広がりそうですね。

スポーツマーケティングラボラトリー 代表取締役の荒木重雄氏。
日本IBM、欧米系通信会社日本法人の要職などを歴任後、2005年千葉ロッテマリーンズに入社、執行役員事業本部長として球団の経営改革に従事。2007年パシフィックリーグマーケティングの設立に伴い、同社の執行役員、取締役を歴任。2009年スポーツマーケティングラボラトリー(SPOLABo)を設立。2013年4月から2017年3月まで、日本野球機構(NPB)特別参与、NPBエンタープライズ執行役員として、野球日本代表・侍ジャパンの事業戦略、デジタル戦略を担当。2017年7月より全日本野球協会(BFJ)に理事に就任。現在に至る

荒木 その通りです。特に地域と関連するビジネスには大きな可能性が眠っています。基本的にプロスポーツは地域との関係性が非常に重要ですし、試合以外のコンテンツを充実させるには地域に焦点を当てたり、連動したりすることが必要です。これまでの試合日依存のビジネスモデルでは、話題の中心はどうしても試合結果でしたが、それ以外のコンテンツも充実させられれば地域自体にもスポットライトが当たるようになります。

つまり、プロスポーツクラブを通じて地域のコミュニティープラットフォームができあがるのです。そこでは、地域に関係するあらゆるスポーツの情報を発信できますし、トッププロだけでなくアマチュア層もピックアップできます。そのプラットフォームを目当てにさらに人が集まってくることも期待できるので、メディアビジネスの多角化も実現できるでしょう。

そうやって地域の人たちが集まるプラットフォームができれば、「ソーシャルインパクトボンド(Social Impact Bond、SIB:官民連携で社会課題解決を目指す仕組み)」もつくることができます。さらにスポーツクラブやイベントに協賛することで社会課題解決に取り組む「ソーシャルスポンサーシップ」に注目する企業も増えていくはずです。こう考えると、今後のスポーツは、今まで以上に地域における重要なポジショニングを獲得していくのではないかと思っています。

バーチャルスタジアムを通じた新観戦スタイル

──今回のコロナ禍の中では、無観客で試合を開催したり、有観客試合になってからも応援に制限が加わったりと、これまでにはあり得なかった興行になっています。アフターコロナの世界で観戦スタイルはどのようになっていくと思われますか。

荒木 現地での観戦スタイルは元の形に戻るだろうと思っています。ただ、以前の形に戻るだけでは面白くないので、よりバージョンアップすべきです。そこでテーマとなるのがスタジアム・アリーナの「リビング(居間)化」です。

スポーツを観るとき、スタジアム・アリーナよりも自宅のテレビで観た方が詳細がよくわかります。その代わり、会場に行けば自宅で味わえないような雰囲気を体験できる。このようにスポーツ観戦は観る場所によって一長一短がありました。

そこでこれからは、「現地なのにテレビよりも詳細が見られる」「家では見えない景色がより見える」というように、まるで自宅の居間で見ているかのような観戦体験を提供できるとスタジアムの価値が一気に上がります。これが、ひとつの本質だと思っています。

一方、自宅で観る時の価値も上げるべきだと思います。自宅での観戦体験で足りないものというと、例えば音やにおいなどの雰囲気もありますが、最も決定的なのは“一緒に観る仲間”だと思います。今回のコロナ禍の中ではリモート会議システムを活用した“リモート応援”が行われましたが、現地以外でも楽しめる新しい観戦スタイルを見つけていくべきですし、実際に色々なプレイヤーが新しい施策を練っているところだと思います。

ただ、現状出てきているアイディアやサービスは、「スタジアムに行けないから、スタジアムの感覚を味わう」という発想から来ているものが多いと思います。しかし「スタジアムに行けないから」ではなく、スタジアムに行ける前提で「スタジアムでの観戦以上の体験を自宅でできる」ことを目指さなくてはなりません。そのためには、いかにして「現場の雰囲気を味わいたい」という思いを抱かせるかが鍵となるでしょう。

例えば2020年6月、日本のロックバンドであるサザンオールスターズが無観客ライブを有料配信し、チケット購入者18万人、推定視聴者数約50万人という数字を叩き出し話題を集めました。私も視聴していましたが、「この中に入りたい」「モニターで観るだけではなく、実際に現地の雰囲気を味わいたい」と思いました。そんな強い欲求をかき立てた上で、VR(仮想現実)など用いてバーチャルスタジアムのようなコンテンツを提供すれば多くのファンが購入するでしょう。

デジタル空間の中のスタジアムならチケットは無限に販売できるので、ビジネス的なメリットも大きいはずです。もちろんバーチャルスタジアムの方が人気になって実際のスタジアムに観客が入らないと本末転倒なので、リアルのチケットが完売したときのみ行うなど、うまく戦略を使い分ける必要はあると思います。