──バーチャルスタジアムが普及すると、SNSで感情を共有しながらスポーツを観戦する「ソーシャルビューイング」のあり方も変わっていきそうですね。

荒木 そうですね。「どこで観るか」から「誰とみるか」の比重が大きくなっていくと思います。これまでのスポーツ観戦は、3つのベニュー(場所)で観戦されていました。1stベニューはスタジアム・アリーナ、2ndベニューは自宅、3rdベニューはスポーツバーやパブリックビューイングなどです。ここにバーチャルスタジアムが加わると、1stから3rdに横串を刺すようになるので、1stベニューで観ている人と3rdベニューで観ている人をつなげたり、2ndと3rdをつなげたりする。

これまでは通信環境などの影響で現地以外では遅延が発生するのが当たり前でしたが、5Gが普及すればその遅れはかなり小さくなるので、リアルで同じ場所にいなくても、多くの人と一緒に感動を共有できるようになっていくでしょう。今後、チケットの販売方法や席種、あるいはスタジアムの設備そのものも含め、新しい観戦方法も考慮した上で設計されていくことにもなると思います。

それからプロスポーツクラブの評価基準も、試合入場者数ではなく、2ndベニュー、3rdベニューでの観戦者も含めた「総観戦者数」へと移っていくでしょう。すべての観戦者を自クラブのコミュニティーに集め、そのデータを取得できるようになれば、さらにビジネスの発想が変わっていくことになるはずです。

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これまでの観戦スタイルと、これからの観戦スタイルの変化。アフターコロナ下では、場所の制限を越えて「誰と観るか」がより重要になっていくという

コミュニティービジネスの時代へ

──最後に、アフターコロナ時代のスポーツビジネスの展望についても教えて下さい。

荒木 1984年のロサンゼルスオリンピック以降、スポーツビジネスはチケットや放映権、スポンサーシップを中心に回ってきましたが、今日お話したように、これからはコミュニティービジネスが中心になっていくと思います。コミュニティーに対してスポーツというコンテンツから生じる価値を提供し、様々な領域に派生させていくことでエンゲージメントを高めていく。

こう考えると、スポーツ関連企業がメディア事業会社化していくとも言えます。そうやって地域におけるシンボリックな存在となり、スポーツを通じて地域や企業をつなげていくと共にビジネスを多角化させていくようになるのです。もともとビジネスの中心的存在であった試合は、よりお祭り的な意味合いを持つものとなっていくでしょう。こうした構図を考慮した上でビジネスの全体像を設計していく必要が出てくるでしょう。

ただ、今日は便宜上「コミュニティービジネス」という言い方をしてきましたが、個人的には少し単純すぎると感じているので、より最適な表現がないかと考えているところではあります。

──地域での重要性が上がっていくとなると、例えば教育や健康増進など、スポーツがスポーツ以外の領域に貢献することがこれまで以上に求められていきそうですね。

荒木 まったくその通りで、スポーツがプラットフォームになると地域に様々な柱ができるようになります。例えばグッズビジネスという観点では、スポーツクラブは地域のお店と比べるとケタが違う数のグッズを扱っていますし、バーゲニングパワーもあります。つまりスポーツクラブは、一介のセールスプロモーション会社と比べても取扱高が大きいんです。

もしクラブに優秀なデザイナーがいて、洗練されたクリエイティブをリリースしていくことができれば、それが地域経済の柱にもなっていくのです。基本的にスポーツは地域に競争相手がいないので、その分確固たるポジションを築ければ、十分にビジネスが成立すると思っています。

この記事は、日経 xTECH(クロステック)の「スポーツイノベーターズ」に掲載したものの転載です(本稿の初出:2020年8月4日)。