障害を持つ人の生活をより快適にする技術でバリアフリーな未来に

スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)のロバート・ライナー教授の発案により始まったサイバスロンは2016年、チューリッヒに世界25カ国から大学や企業の66チームが集まって第1回大会が行われた。第2回大会はコロナ禍の中、各チームが事前に録画した競技内容をオンラインで審査する形で開催され、20カ国から51チームが参加した。日本からはBionicMのほか、車いすレースに4チームが出場。慶應義塾大学が3位、和歌山大学が4位入賞を果たしている。

孫氏は、パワード義足の開発に役立つロボット技術を研究するため大学院博士課程に戻った時に第1回大会を見に行き、「いつかは自分の作った義足で出場したい」と思ったという。会場のアリーナは4600人の観客で満員となり、選手を応援する大歓声が上がっていた。

サイバスロンのもう一つの大きな目的は、大会を通じて技術や障害に接点のない人にも興味を持ってもらうことにある。孫氏は「このような競技会があるからこそ、障害者が普段の生活においてどんなことに課題を感じているかを一般の方に知ってもらうことができ、障害に対する理解も深まると思います。また、その課題を解決する技術を多くの人に知ってもらうことで、実用性の高い新しいテクノロジーに対する期待も高まるのではないでしょうか」と、その理念に共感する。

片足でバランスを取りながら進む一本橋も、義足ユーザーには難しい動作だ。樋口氏は板を購入し、自宅でも練習を積んで本番に臨んだ(写真提供:BionicM ©Takao Ochi/Kanpara Press)
片足でバランスを取りながら進む一本橋も、義足ユーザーには難しい動作だ。樋口氏は板を購入し、自宅でも練習を積んで本番に臨んだ(写真提供:BionicM ©Takao Ochi/Kanpara Press)

パワード義足の今年中の商品化を目指す同社にとって、サイバスロンはマイルストーンの一つに過ぎないという。孫氏は「よりスピーディに、より安全に動けるよう、センシング技術や膝の動きに合わせるアルゴリズムを改善し、ユーザーの生活を大きく向上させる使いやすい義足に仕上げたい」と意気込む。

樋口氏が今回、サイバスロンに参加したのも、義足ユーザーのバリアをなくす技術の開発に役立ちたいという思いがあったからだ。普段から義足の見た目にこだわり、真冬でも常に半ズボンで義足の「格好良さ」を見せる活動を続けている樋口氏は、開発中の義足に大きな期待を寄せている。「病気や事故で足を切断してしまうと、自分の足で歩こう、外に出て行こうという気持ちまで失ってしまう人が多いんですよ。なので、あまり筋力がない人でも『これを身に付ければどこでも自由に行ける』と思える義足を作ってほしいと願っています」

サイバスロンは次回、2024年にチューリッヒで開催されることが決まった。第2回大会の義手レースでは、ボトルの蓋を開ける、靴ひもを結ぶ、はさみで紙を切る、といったタスクに加え、さまざまな形のオブジェクトを触るだけで識別する新しいタスクが追加され、次々と正解する選手たちに驚かされた。それぞれのレースのタスクは技術の進歩に合わせ、さらに難度が増していくだろう。バリアフリーな未来は確実に近づいている。サイバスロンの最大の魅力は、そんな希望を実感できることかもしれない。