「スポーツ×社会課題」を考えるオンラインイベント「ソウゾウするちから~世界を変える! 未来をひらく! スポーツのチカラ~」が2021年1月30日、国際協力機構(JICA)、日本オリンピック委員会(JOC)、パナソニックの共催で行われた。女子マラソンバルセロナオリンピック銀メダル、アトランタオリンピック銅メダルの有森裕子さんらが登壇し、途上国での国際協力活動のエピソードや、体験を通じて感じたスポーツの可能性について語り合った。コロナ禍で閉塞感が漂う今こそ、有森さんらが実感している「スポーツのチカラ」とは──。

国際協力活動で実感したスポーツの持つパワー

イベントはオンラインのライブ配信で行われ、1441人(総視聴数)がアンケートやクイズに答えながら視聴した。登壇者は有森さんのほか、車いすバスケットボールで4大会連続パラリンピックに出場した神保康広さん、パナソニック社員(ブランド戦略本部コーポレート・コミュニケーション部統括主幹)の園田俊介さんの3人。有森さんは認定NPO法人「ハート・オブ・ゴールド」を立ち上げ、20年以上カンボジアを中心にスポーツを通じた支援活動を続けている。神保さん、園田さんもJICA海外協力隊として途上国でスポーツ指導をした経験を持つ。

登壇した司会の本仮屋リイナさん(左端)、神保さん(左から2番目)、有森さん(左から3番目)、園⽥さん(右端)。有森さんは⼤阪から中継で参加した(写真提供︓パナソニック、以下同)

トークセッションの前半では、それぞれが「スポーツのチカラ」を感じたパワーワードを掲げて語り合った。まず有森さんが「すべてを(は)チカラに(できる、する)」を掲げ、1996年からカンボジアで開催しているチャリティハーフマラソンでのエピソードを紹介した。

誘われて参加した第1回大会当時、長い内戦が終わって間もないカンボジアは対人地雷で手足を失った人も多く、スポーツどころではない状態だった。走ることがスポーツだと理解されず、現地で練習していると3輪タクシーが寄ってきて「疲れるだろ。乗っていけ」と言われ、大会に参加した数人の選手もすぐに歩いたり、途中で3輪タクシーに乗って帰ってしまったり。沿道の応援も旗を持つだけで無表情。「こんなことをやっても何もならない」と思ったが、翌年の第2回大会では状況が一変していたという。

スクリーンの写真は、カンボジアで開催しているアンコールワット国際ハーフマラソンの参加者らと有森さん

「子どもたちが1年目に持っていったTシャツや髪飾りなどを身に付け、前日から練習して、全身で喜びを表現して参加してくれた。たった1回の大会で、こんなに人々の表情が前向きに変わる。その変化にスポーツの持つ力や可能性を、ある意味これまで自分がスポーツを通して生きてきた人生以上に教えられた」と有森さん。チャリティハーフマラソンは今ではカンボジアの選手はもちろん、80カ国から1万人以上が参加するまでになり、大会を通して世界に羽ばたいていこうという思いを持つ子どもたちも増えているという。

自ら取り組む姿が、現地の人々の心を喚起

神保さんは16歳の時にバイク事故で脊髄を損傷し、約2年間の引きこもり生活の後、友人の勧めで車いすバスケットボールに出合い、それが第二の人生のスタートになった。引退後にマレーシアやジンバブエなどで車いすバスケットボールを指導した実体験から「世界共通言語」という言葉を掲げた。

「言葉が通じなくても身振り手振りで実際に僕がやってみせることで、結構通じることを実感した」と神保さん。最初は練習時間に集まらないなど、やる気が全く見えなかった子どもたちが、練習時間前から準備を整え率先してきつい練習に取り組む神保さんの姿を見て、少しずつ変わっていく姿にもスポーツの力を感じたという。「僕に負けまいとチャレンジする子が増えていき、連帯感が生まれてどんどん練習量も増え、レベルが如実に上がっていくのを見ることができた」。その様子を見た他の隊員から「こんなに短期間でみんなが楽しそうについてきてくれるなんて、スポーツってすごいね」と、うらやましがられたエピソードも紹介した。

スクリーンは、マレーシアで初めて開催されたフェスピック(極東・南太平洋身体障害者スポーツ大会、現在はアジアパラ競技大会)でコーチとして選手を鼓舞する神保さん
スクリーンは、ザンビアで指導する園田さん。プールは水の色が緑色だった

「Passion」を挙げた園田さんは、入社後にJICA海外協力隊に参加し、派遣されたザンビアで水泳を指導した。練習場所の屋外プールの衛生状態が悪く、そもそも満足に泳げる環境ではなかった。しかし、水泳をやりたい気持ちがあれば頑張れる環境を整えるところから始め、コツコツと真面目に練習する選手を優先して大会に出場させることで選手の意識を変えながら、最終的には教え子の中から世界水泳に出場する選手を輩出した。「スポーツはPassionを持つことができる。目標に向かってやるというのも、観る、応援する、さらには社会貢献というところまでPassionで進めることができるのがスポーツの力」と語った。